CuriousHunter 依存リハ

好奇心のままに、依存症を探索

共依存の脳科学【依存症と人間関係】

*脳機能の変化が共依存の原因?*


基本的に依存症の研究は、
薬物使用をしている当事者に焦点が当てられています。

 

そして、依存症の家族を持つ人たちへの影響への
研究はそこまで焦点が当てられていません

 

ただ、慢性疾患においては
慢性疾患を持つ当事者に関わる全ての人に
長期にわたるネガティブな影響があると言われており、


これらの影響は、
多様な場面(あいまいな心の境界線・役割・ルール)で見られ
それらが、不健全な家族関係の維持をしている可能性があります。

 

そんな、関係性を説明する1つのコンセプトが
共依存です。

 

そして、その共依存になっている家族の人たちに
どのような影響があるのか
また、共依存脳科学的実験が行われ始めたので
その話をこの記事ではします。

 

 

 


共依存とは*

 

まず、共依存定義を1つ紹介します。

Fischer et al. (1991)によると


共依存の定義*

ネガティブな結果があるにもかかわらず、
依存症で苦しんでいる愛する人に対する
機能不全的な過度な介入

 


ということで、依存症当事者ではなく
依存症当事者の周りにいる人が
自分の大切な人が依存症である場合に
過度な介入をして関係がうまくいかなくなる状態ですね。

 

 

そして、この共依存にも薬物使用障害にみられる特徴が
いくつか見られます。

 

共依存と依存症の共通点*

  • 共依存は、条件付け学習
    (Chang, 2012)
  • 依存症・精神疾患持ちの人に対する依存
  • 依存症・精神疾患持ちの人に対する執着
  • 依存症・精神疾患持ちの人に対して夢中
    (Beattie, 1992)


これらの結果、共依存を持つと多様な不具合が出てきます。

共依存の悪影響の例*

  • 過剰な時間・労力を他人に使う
  • 自分の課題に使える時間・労力が減る
    (セルフケア不足)
    (Daire et al., 2012)
  • セルフネグレクト
  • 低い自尊心
    (Chang, 2018)
  • 他の精神疾患・身体疾患
    (Ray et al., 2007)

 

また、共依存の人たちは頻繁に
他人から否定される経験し
過剰な責任感を感じ
他人との健全な心の境界線を保てなくなります。

 

そして、最終的に
これらの過剰な他人への投資(時間・労力)が
非合理的な考え・大切な人を失う恐怖・
否定される恐怖・不安定な愛着を形成します。

 


という感じで、依存症の家族を持っている人たちにも
悪影響が現れてきます。

 

そして、この共依存に関連していそうな
ある脳部位が注目を浴びています。

 

学習理論と依存症についての記事があるので
気になる人はぜひ読んでみてください。

 

curiousquest.hatenablog.com

 

 


共依存前頭前野

 

人間の脳は、環境・文化・自分自身を論理付けて
説明できるように進化してきました。
(Forbes & Grafman, 2010)

 

そして、この論理的な思考は
感情・認知的なempathyを通して理解されています。
(McGrath & Oakley, 2012)

 

この感情・認知を統合して
論理付けしている場所が前頭前野です。

 


前頭前野は、最も高次脳な脳機能で
感情・行動を調整しています。
(Arnsten, 2009)


そして、この脳部位は可塑性が高く(変化しやすい)
化学的・構造的変化がこの脳部位で起こることで
依存症の発症に影響を与えていると考えられており
共依存も同様なことが起きる可能性が示唆されています
(Shumway et al., 2018)

 


理論上では、
依存症持ちの家族が、共依存的行動をすることで
安心・報酬を得ます
そのため、その行動を繰り返し
その刺激が脳の回路の構造・機能を
変えると考えられています。
(Daily, 2014)

 

 

これらを理由に、共依存は依存症の1つ
もしくは、少なくとも依存症にみられる
神経生理学的な関連が共依存でもみられる
考えられておます。
(Daily, 2014)

 

ということで、いくつか前頭皮質の機能と
依存症・共依存を見ていきます。

 

 

共依存前頭前野の変化*

 

前頭前野の特に背外側前頭前野(背中側の外側)の場所は、
ワーキングメモリー、注意、決断、自身のモニタリング
関連しています。

 

そして、この脳部位は薬物使用障害では
依存症関連の刺激(居酒屋、匂い等)に対して
過剰な反応に関連しており
この反応は、薬物に対しての過度に没頭している状態
として認識されています。
(Goldstein & Volkow, 2011)

 

この薬物への過度な没頭を、
共依存の場合は
大切な人に対する反応とその脳部位(前頭前皮質)の活動が関連が、
依存症の当事者と同様に、依存症の家族にとって
役に立つと認識される行動に対しての没頭を
説明する材料になってます
(Shumway et al., 2018)

 

さらに、左の背外側前頭前野
背内側前頭前野(背中側の内側)の活動は
アプローチの形成(刺激・報酬へ向かう行動)と関連しており、
一方で、右のそれらの脳部位は、逃避プロセス(刺激・報酬から逃げる行動)
に関連しています
(Banich, 2004)

 

よって、共依存持ちの人は
感情的な状況においては
左の背外側前頭前野の活動が高く(刺激・報酬に引き付けらるやすく)、
右の背外側前頭前野の活動が低い(刺激・報酬から離れにくい)可能性がある。

 

 

一方で、背内側前頭前野
社会的コネクション(他の人とつながってる感覚)の形成
役立っており
そのため、この脳部位の活動によって
利他的で支援的な他人への関り方になってきます。

 

また、この脳部位は高次脳の認知機能をつかさどっており
モラルの判断。マルチタスク・自分自身のモニタリングをする
役割を持っています。
(Greene et al., 2004; Gusnard et al., 2001)

 


ただ、薬物使用障害では、
この脳部位(背内側前頭前)の萎縮がみられ
(Mechtcheriakov et al., 2007)
もしかしたら、共依存においても
同様の傾向がみられる可能性があります。

 

 

ということで、
共依存の場合、
もしかしたら、ストレスの多い依存症家族を持つ環境によって
脳の前頭前野が変化し
依存症の家族を持つ人たちは、愛という感情を基盤とした
大切な人のための利他的な行動から
恐怖という感情によって動機づけられた行動に変化する。

 

要は、大切な人をどうにかしたいと思っていたのに、
気づいたら、その行動をしないといけない
否定される・大切な人を失う
恐怖感を取り除くために利他的な行動を取り続ける

 

理論上では、そんな感じです。

 

これは、他の薬物依存症の理論と似ている点が
ありますね。
気になる人は、チェックしてみてください。

 

curiousquest.hatenablog.com

 

 

もう1つ、共依存を説明する理論があり
Family system theoryというものがあります。
他の記事で取り扱いますね。

 


*理論を越えた実際のデータ*

 

2つ紹介します。

 

*1つ目の共依存の実験*

依存症の家族を持つ人達を対象に
脳の機能(背外側前頭前野)が変化しているか調べました。

 

依存症の家族を持つ人たちに、
その人たちにとって大切な人(依存症持ち)の写真を見せ
その時の脳の活動を観察しました。

 

その結果
背外側前頭前野の反応に変化がみられました。
(Shumway et al., 2018)

 

つまり、依存症持ちの大切な人を目の前にすると
背外側前頭前野の脳の反応に変化が起こります。

 

 


*2つ目の実験*

再び、依存症の家族を持つ人たちを対象した
実験をZielinski et al. (2019)さんたちがしました。


1つ目の実験と同様に
依存症持ちの大切な家族の写真と
ポジティブ・ネガティブ・普通の写真を見せ
それぞれの写真に対する脳の反応(前頭前野)を観察しました。

 

そして、共依存の度合いを測るテストをし
脳活動(前頭前野)と共依存度の関連を見ました。

 

 

結果

  • 低い左DMPFCの活動と高い共依存度に関連あり 
  • 右のDMPFCとDLPFCと共依存度は関連なし
  • 左のDLPFCの活動と共依存度は関連なし

 

この結果によると
元々の理論とは異なった結果が多少出てきていますね。

 

(元々の理論上の共依存と脳活動の仮説)

 


他の実験結果

  • 左背内側前頭前野の活動と共依存度は
    関連あり・なし(両方の結果がでた)
  • 共依存度合いが高い人たちはの左背内側前頭前野は、
    家族に関連のないネガティブ・普通の写真に対してよりも
    大切な人(依存症持ち)の写真に対してより反応する

 

という感じで、共依存DSMという診断の手引きでは
病気としては認められてませんが、
脳に異常がある可能性が出てきました。

 

という感じで、脳科学の研究が進むと
いろんな治療法や介入法の発展が期待できそうですね。

 

依存症の定義・薬物以外の依存症とはなにかについての
記事があるので、気になる人は読んでみてください。

 

curiousquest.hatenablog.com

curiousquest.hatenablog.com

curiousquest.hatenablog.com

 

 

 

*まとめ*

  • 依存症当事者だけでなく、
    依存症の家族も精神的・身体的な影響を受ける
  • 共依存は、依存症の家族を持つ人たちへの
    影響を説明する理論の1つ
  • 共依存は、大切な人(依存症)に対する
    過度で不健全な介入
  • 薬物依存と共依存に共通点がある
  • 共依存は、他人への過度な介入により
    自分へのケアを怠ってしまう。
  • 共依存の行動と脳活動・構造に関連がある可能性がある。
  • 脳の前頭前野の活動異常と共依存度に関連がある可能性がある。

 

*記事関連おすすめの本*

「他人を支配したがる人たち」

「In Sheep's Clotihng: Understanding and Dealing with Manipulative People」

 

イギリスで、依存症回復施設のお手伝いをしていると
共依存という言葉より、Manipulation(操る)という言葉が
代わりに使われている印象があります。

この他人を支配する人たちは、身近にいたりします。

どのように、そのような人たちから
身を守るのか解説してくれている本です。

依存症の当事者が家族に影響を与えるだけでなく、
家族も依存症当事者に影響を与えます。

家族が他人を支配する気質を持っているのであれば、
依存症の回復を成功させるために
身を守る術を知っていおいても損はないと思います。

ぜひ、購入して読んでみてください。