ビタミン不足の依存症 栄養失調の原因は薬物?【栄養と依存症】
*薬物によって吸収を阻害される栄養素*
薬物依存は、単なる依存症だけではなく
多様な合併症を併発します。
例えば
そして、これらに関連する要因の1つとして
「栄養」があります。
しかし、栄養に焦点を当てた治療・バランスの取れた食事が
依存症回復を手助けするエビデンスがあるにも関わらず
(Biery et al., 1991; Grant et al., 2004)
栄養の重要性に焦点があてられることが少ないです。
ということで、
この記事では、依存症と栄養失調について
解説していき、食事の見直しのきっかけになったら嬉しいです。
*栄養失調*
まず、定義から入りましょう。
*栄養失調とは*
1つ以上の栄養素の不足による不健康な状態
(Schenker, 2003)
ただ、診断基準は厳密ではなく
診断が難しい状況です。
標準的な、検査基準として2つの項目が使われます。
- Body Mass Index (BMI)
- 過去3-6か月間において、
意図しない5-10%の体重減少
(British Association for Parenteral and Enteral Nutrition, 2016; BAPEN)
他にも、栄養失調の指標があります。
- 落ち込んだ気分
- 筋肉の衰弱
- 感染・病気
(BAPEN, 2016)
しかし、栄養失調の難しいところは
過体重であっても栄養失調になりえる点です。
(Gastelurrutia et al., 2011)
さらに、依存症の行動や症状が
栄養失調の症状をわかりにくくさせます
栄養失調の原因もいくつかあります。
*栄養失調の原因*
- 栄養のある食べ物を買うお金・場所がない
- 料理できる設備がない
- 料理の知識がない
- 料理の自信がない
- 食べる動機の欠如
- 食べものの重要性を学ぶモチベーションがない
(Himmelgreen et al., 1998; Neale et al., 2012; Schenker, 2003)
環境因子と個人の動機・スキル等が
栄養失調に関連していそうですね。
実際、私がお手伝いしている依存症回復施設では
料理教室的なものがあり、
栄養素の教育と料理の実践のプログラムがあります。
これらは、食に関する知識・スキル。自信の向上に
つながっている可能性はありそうですね。
*物質使用障害と栄養失調*
薬物依存においては、栄養状態と体組成に問題が起きることが多いです
ただ、この記事では「栄養失調」のみ取り扱います。
依存症における栄養失調の原因として考えられているものが
いくつかあります。
*依存症における栄養失調の原因*
- 食欲の減少
- 食べものの好みの変化(甘い・手軽・安い・早い食べ物を好む)
(Neale et al., 2012) - 食べ物を入手するための身体機能の障害
(Egerer et al., 2005)
という感じで、依存症では
食べ物の好みが変わり、特に手間がかからず
即座に報酬が得られる食べ物を好んでいますね。
また、依存症においては
食欲もなく、ごはんを食べに行く・買いに行くための
身体機能に障害が発生している状態みたいですね。
しかし、栄養状態の悪化は依存症が発症してから
起きるだけでなく、
依存症が発症する前に、栄養状態が悪く
それが故に、依存症の発症リスクを増加させていると報告されています。
(Schroeder & Higgins, 2016)
これら上記の特徴は、依存症様の特徴がみられますね。
食べ物も同様に、薬物と同じ神経回路を刺激してるので
それらの食べ物を好む理由がなんとなくわかりますね。
その脳回路についての記事もあるので、ぜひ読んでみてください。
という感じで、
依存症と栄養の関連性が少しずつ見えてきましたね。
*アルコール依存と栄養失調*
慢性的なアルコール依存では、栄養失調は
大抵の状況で認められいます。
(Nair et al., 2015)
理由はいくつかあります。
*アルコール依存症が栄養失調を引き起こす原因*
- アルコールは、栄養の吸収を妨げる
(慢性のアルコール摂取は)消化管の健康に重度なダメージを与える
(Badawy, 2014) - 口腔内・食道・胃の粘膜損傷
- 胃内容排出速度の原則(栄養吸収の遅れ)
- 腸の透過性を増加(害のある物質を通す)
- 腸の粘膜のダメージ
- 細胞の増加
(Egerer et al., 2005)
これらを理由に、アルコール依存では
食べものの消化と吸収に悪影響を与えていると考えられています。
(Chopra & Tiwari, 2012)
実際に、どのような栄養素が足りていないのでしょうか
実は、割とほぼ大抵の栄養素が大抵ない感じです。
*アルコール依存と不足している栄養素*
- チアミン(ビタミンB1)
(Stroehle et al., 2012) - リボフラビン(ビタミンB2)
- ナイアシン(ビタミンB3)
(Chopra & Tiwari, 2012; Dastur et al., 1976) - ビタミンB5
(Nabipour et al., 2014) - ピリドキシン(ビタミンB6)
(de la Monte & Kril, 2014) - 葉酸
(de la Monte & Kril, 2014) - ビタミンA
(Clugston et al., 2015) - ビタミンC
(Boyd et al., 1981) - ビタミンD
(quintero-Platt et al., 2015) - ビタミンE
(Copra & Tiwari, 2012) - ビタミンK
(Iber et al., 1986) - マグネシウム
(Dingwall et al., 2015) - セレン
(Tanner et al., 1986) - 亜鉛
(de la Monte & Kril, 2014)
ほとんどの栄養素ですね。
まあ、数個の論文がこの栄養素が足りていない
報告したから正しいというわけではないですが。
ただ、アルコール依存でとりあえず
何らかの栄養失調が発生しそうな雰囲気が出てますね。
そして、アルコールがどのように
これらの栄養素の吸収を阻害するか
メカニズムもわかっています。
ただ、細かすぎるので今回は割愛します。
同様に、それぞれの栄養不足によって
起きる障害・症状も割愛します。
気になる人は、調べてみてください。
*違法薬物と栄養失調*
覚せい剤・コカイン・ヘロイン等の薬物においても
栄養失調が認められています。
(Cunningham, 2016)
そして、いくつか考えられる原因があります。
*違法薬物における栄養失調の原因*
- 不十分な食事
(Tang et al., 2011) - 肝臓へのダメージ
- 代謝の変化
(Tang et al., 2010) - 食欲の減少
(Hossain et al., 2007) - 腸の運動の抑制
(Mysels & Sullivan, 2010) - 排泄・排尿の増加(栄養素の排出)
(Tang et al., 2010)
アルコールとは、多少異なりますが
食事をとらなくなり、
食事をとっても、消化管の機能が落ちているため
上手く栄養素が吸収できない感じですかね。
*違法薬物と不足栄養素*
アルコールと同様に、多様な栄養素が不足している可能性があります。
*不足している栄養素の例*
- ビタミンA
(Ross et al., 2012) - チアミン(ビタミンB1)
(Saeland et al., 2011) - リボフラビン(ビタミンB2)
(Saeland et al., 2011) - ナイアシン(ビタミンB3)
(Saeland et al., 2011) - ビタミンB6
(Varela et al., 1997) - 葉酸
(Vaela et al., 1997) - ビタミンB12
(el-Nakah et al., 1979) - ビタミンC
(Saeland et al., 2011) - ビタミンD
(Saeland et al., 2011) - ビタミンE
(Nazrul Islam et al., 2011) - カルシウム
(Saeland et al., 2011) - 銅
(Saeland et al., 2011) - 鉄
(Hossain et al., 2007) - マグネシウム
(Saeland et al., 2011) - 亜鉛
(Varela et al., 1997)
そして、興味深いデータがあり
栄養素(ビタミンA・C・E)が十分に取れていない人ほど
薬物使用の期間が長いと報告されています
(Nazrul Islam et al., 2001)
という感じで、栄養素の不足が依存症において報告されています。
食事習慣を見直すためには、
お金・時間・労力・スキル・知識・自信・モチベーション等が
必要かもしれませんが、少しずつ変えられるといいですね。
依存症の観点からみた、食事についての記事もあるので
気にある人は、ぜひ読んでみてください
*まとめ*
- 栄養失調は、体重の減少・気分の落ち込み・身体の衰弱を特徴とする
- 依存症の場合、食欲の減少・甘いファストフードを好む・
食べ物を入手するための身体機能不足 - 薬物は、栄養素の消化・吸収の妨げをする
- 依存症では、多様な栄養素の不足の可能性が考えられる。
*記事関連のおすすめ本*
「Modernist Cuisine at Home 現代料理のすべて」
私、料理が好きなんですよね。
料理は、科学が満載で
なぜがわかるとすっごい面白いです。
私自身は、幼稚園から自分のごはんを自分で
作ってしまう子供だったのですが、
家族に料理の「なぜ?」を質問しても
まともな回答が返ってきた覚えはありません。
ただ、この本はしっかりと
料理をサイエンスしているので、
楽しく料理ができるきっかけをくれると思います。
ぜひ、購入して読んでみてください。