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ビタミン不足の依存症 栄養失調の原因は薬物?【栄養と依存症】

*薬物によって吸収を阻害される栄養素*


薬物依存は、単なる依存症だけではなく
多様な合併症を併発します。

 

例えば

  • 栄養失調
  • 代謝障害
    (Nabipour et al., 2014)
  • 体組成の変化
    (Tang et al., 2010)
  • メンタルヘルスの問題
    (Tolliver & Anton, 2015)

 

そして、これらに関連する要因の1つとして
「栄養」があります。

 

しかし、栄養に焦点を当てた治療・バランスの取れた食事が
依存症回復を手助けするエビデンスがあるにも関わらず
(Biery et al., 1991; Grant et al., 2004)
栄養の重要性に焦点があてられることが少ないです。

 

ということで、
この記事では、依存症と栄養失調について
解説していき、食事の見直しのきっかけになったら嬉しいです。

 

 

*栄養失調*

まず、定義から入りましょう。

 

*栄養失調とは*

1つ以上の栄養素の不足による不健康な状態
(Schenker, 2003)

 

 

ただ、診断基準は厳密ではなく
診断が難しい状況です。

 

標準的な、検査基準として2つの項目が使われます。

  • Body Mass Index (BMI)
  • 過去3-6か月間において、
    意図しない5-10%の体重減少
    (British Association for Parenteral and Enteral Nutrition, 2016; BAPEN)

 

他にも、栄養失調の指標があります。

  • 落ち込んだ気分
  • 筋肉の衰弱
  • 感染・病気
    (BAPEN, 2016)

 

しかし、栄養失調の難しいところは
過体重であっても栄養失調になりえる点です。
(Gastelurrutia et al., 2011)

 

さらに、依存症の行動や症状が
栄養失調の症状をわかりにくくさせます

 


栄養失調の原因もいくつかあります。

 

*栄養失調の原因*

  • 栄養のある食べ物を買うお金・場所がない
  • 料理できる設備がない
  • 料理の知識がない
  • 料理の自信がない
  • 食べる動機の欠如
  • 食べものの重要性を学ぶモチベーションがない
    (Himmelgreen et al., 1998; Neale et al., 2012; Schenker, 2003)

 

環境因子と個人の動機・スキル等が
栄養失調に関連していそうですね。

 

実際、私がお手伝いしている依存症回復施設では
料理教室的なものがあり、
栄養素の教育と料理の実践のプログラムがあります。

 

これらは、食に関する知識・スキル。自信の向上に
つながっている可能性はありそうですね。

 


*物質使用障害と栄養失調*

薬物依存においては、栄養状態と体組成に問題が起きることが多いです

ただ、この記事では「栄養失調」のみ取り扱います。

 

依存症における栄養失調の原因として考えられているものが
いくつかあります。

 


*依存症における栄養失調の原因*

  • 食欲の減少
  • 食べものの好みの変化(甘い・手軽・安い・早い食べ物を好む)
    (Neale et al., 2012)
  • 食べ物を入手するための身体機能の障害
    (Egerer et al., 2005)

 

 

という感じで、依存症では
食べ物の好みが変わり、特に手間がかからず
即座に報酬が得られる食べ物を好んでいますね。

また、依存症においては
食欲もなく、ごはんを食べに行く・買いに行くための
身体機能に障害が発生している状態みたいですね。

 

 


しかし、栄養状態の悪化は依存症が発症してから
起きるだけでなく、
依存症が発症する前に、栄養状態が悪く
それが故に、依存症の発症リスクを増加させていると報告されています。
(Schroeder & Higgins, 2016)

 

 

これら上記の特徴は、依存症様の特徴がみられますね。
食べ物も同様に、薬物と同じ神経回路を刺激してるので
それらの食べ物を好む理由がなんとなくわかりますね。

その脳回路についての記事もあるので、ぜひ読んでみてください。

 

curiousquest.hatenablog.com

 

 


という感じで、
依存症と栄養の関連性が少しずつ見えてきましたね。

 

 

*アルコール依存と栄養失調*


慢性的なアルコール依存では、栄養失調は
大抵の状況で認められいます
(Nair et al., 2015)

 

理由はいくつかあります。

 

アルコール依存症が栄養失調を引き起こす原因*

  • アルコールは、栄養の吸収を妨げる
    (慢性のアルコール摂取は)消化管の健康に重度なダメージを与える
    (Badawy, 2014)
  • 口腔内・食道・胃の粘膜損傷
  • 胃内容排出速度の原則(栄養吸収の遅れ)
  • 腸の透過性を増加(害のある物質を通す)
  • 腸の粘膜のダメージ
  • 細胞の増加
    (Egerer et al., 2005)

 

これらを理由に、アルコール依存では
食べものの消化と吸収に悪影響を与えていると考えられています。
(Chopra & Tiwari, 2012)

 


実際に、どのような栄養素が足りていないのでしょうか

実は、割とほぼ大抵の栄養素が大抵ない感じです。

 

*アルコール依存と不足している栄養素*

  • チアミン(ビタミンB1)
    (Stroehle et al., 2012)
  • リボフラビン(ビタミンB2)
  • ナイアシン(ビタミンB3)
    (Chopra & Tiwari, 2012; Dastur et al., 1976)
  • ビタミンB5
    (Nabipour et al., 2014)
  • ピリドキシン(ビタミンB6)
    (de la Monte & Kril, 2014)
  • 葉酸
    (de la Monte & Kril, 2014)
  • ビタミンA
    (Clugston et al., 2015)
  • ビタミンC
    (Boyd et al., 1981)
  • ビタミンD
    (quintero-Platt et al., 2015)
  • ビタミンE
    (Copra & Tiwari, 2012)
  • ビタミンK
    (Iber et al., 1986)
  • マグネシウム
    (Dingwall et al., 2015)
  • セレン
    (Tanner et al., 1986)
  • 亜鉛
    (de la Monte & Kril, 2014)

 

ほとんどの栄養素ですね。
まあ、数個の論文がこの栄養素が足りていない
報告したから正しいというわけではないですが。

 

ただ、アルコール依存でとりあえず
何らかの栄養失調が発生しそうな雰囲気が出てますね。

 

そして、アルコールがどのように
これらの栄養素の吸収を阻害するか
カニズムもわかっています。

ただ、細かすぎるので今回は割愛します。
同様に、それぞれの栄養不足によって
起きる障害・症状も割愛します。
気になる人は、調べてみてください。

 

 

*違法薬物と栄養失調*

覚せい剤・コカイン・ヘロイン等の薬物においても
栄養失調が認められています
(Cunningham, 2016)

 

そして、いくつか考えられる原因があります。

*違法薬物における栄養失調の原因*

  • 不十分な食事
    (Tang et al., 2011)
  • 肝臓へのダメージ
  • 代謝の変化
    (Tang et al., 2010)
  • 食欲の減少
    (Hossain et al., 2007)
  • 腸の運動の抑制
    (Mysels & Sullivan, 2010)
  • 排泄・排尿の増加(栄養素の排出)
    (Tang et al., 2010)

 

アルコールとは、多少異なりますが

食事をとらなくなり、
食事をとっても、消化管の機能が落ちているため
上手く栄養素が吸収できない感じですかね。

 


*違法薬物と不足栄養素*

アルコールと同様に、多様な栄養素が不足している可能性があります。

 

*不足している栄養素の例*

  • ビタミンA
    (Ross et al., 2012)
  • チアミン(ビタミンB1)
    (Saeland et al., 2011)
  • リボフラビン(ビタミンB2)
    (Saeland et al., 2011)
  • ナイアシン(ビタミンB3)
    (Saeland et al., 2011)
  • ビタミンB6
    (Varela et al., 1997)
  • 葉酸
    (Vaela et al., 1997)
  • ビタミンB12
    (el-Nakah et al., 1979)
  • ビタミンC
    (Saeland et al., 2011)
  • ビタミンD
    (Saeland et al., 2011)
  • ビタミンE
    (Nazrul Islam et al., 2011)
  • カルシウム
    (Saeland et al., 2011)

  • (Saeland et al., 2011)

  • (Hossain et al., 2007)
  • マグネシウム
    (Saeland et al., 2011)
  • 亜鉛
    (Varela et al., 1997)

 


そして、興味深いデータがあり
栄養素(ビタミンA・C・E)が十分に取れていない人ほど
薬物使用の期間が長いと報告されています
(Nazrul Islam et al., 2001)

 

という感じで、栄養素の不足が依存症において報告されています。

食事習慣を見直すためには、
お金・時間・労力・スキル・知識・自信・モチベーション等が
必要かもしれませんが、少しずつ変えられるといいですね。

 

依存症の観点からみた、食事についての記事もあるので
気にある人は、ぜひ読んでみてください

 

curiousquest.hatenablog.com

 

*まとめ*

  • 栄養失調は、体重の減少・気分の落ち込み・身体の衰弱を特徴とする
  • 依存症の場合、食欲の減少・甘いファストフードを好む・
    食べ物を入手するための身体機能不足
  • 薬物は、栄養素の消化・吸収の妨げをする
  • 依存症では、多様な栄養素の不足の可能性が考えられる。

 

 

*記事関連のおすすめ本*

「Modernist Cuisine at Home 現代料理のすべて」

 

私、料理が好きなんですよね。

料理は、科学が満載で
なぜがわかるとすっごい面白いです。

私自身は、幼稚園から自分のごはんを自分で
作ってしまう子供だったのですが、
家族に料理の「なぜ?」を質問しても
まともな回答が返ってきた覚えはありません。

 

ただ、この本はしっかりと
料理をサイエンスしているので、
楽しく料理ができるきっかけをくれると思います。

ぜひ、購入して読んでみてください。