アルコール依存の治療に有効な薬物? 幻覚剤は役に立つのか?
アルコール依存の治療法として
薬物療法・心理療法等がありますが、
今回紹介するのは、薬物療法ですが
さらに、詳しく言うと違法薬物と定められている
幻覚剤での治療についてのお話です。
*幻覚剤とは*
幻覚剤とは、その名の通り幻覚をもたらす薬物です。
時々、日本でもサイケデリックという言葉を聞いたりしますかね。
幻覚剤の例では、LSD・マジックマッシュルーム・MDMA等ですかね。
幻覚剤は、昔から宗教的な儀式で使われたり、
シャーマンや心理療法に用いられていましたが
日本では脱法ドラッグ対策として
幻覚剤は規制されてしまいました。
世界も同様な対策をし、
幻覚を発生させるというだけで医学のための研究がほとんど行われず
制限ばかりがかけられていきました。
*サイケデリック・ルネッサンス*
幻覚剤に対する規制ばかりかと思いきや
21世紀に大変革が起こりました。
既存の精神疾患の薬物療法の治療成績の限界と
麻薬戦争(禁止政策の一手張り)の失敗の背景をうけ
幻覚剤を使った治療の研究資金がたくさん集まり
幻覚剤の治療効果・安全性の実証が勧められてきています。
特に、うつ病と不安障害ですね。
そして、薬物依存症もこの候補になっています。
実際に、幻覚剤がアルコール依存症に効果的なのか?
*アルコール依存症とマジックマッシュルーム*
次に紹介する、幻覚剤はシロシビンです。
これは、まっじくマッシュルームと呼ばれている
キノコに含まれる成分です。
この幻覚剤を使って、
アルコール依存症の飲酒割合を調べた実験があります。
Bogenschutz et al(2015)によると
アルコール依存症の人たちに対してシロサイビンを投与すると
その後の飲酒日・重度の量の飲酒日の割合は
シロサイビンを投与する前の飲酒量に対して
大幅に減少している
のが、下のグラフでわかると思います。
この結果からわかるように、
シロサイビンのアルコール依存症に対する
飲酒日の割合減少に対して有効性がある
可能性を示唆しています。
*アルコール依存とMDMA*
最後に、もう一つの幻覚剤であるMDMAの
アルコール依存症に対する効果を見ていきます。
Sessaさん達の(2021)での研究では、
デトックス治療を終了した患者さん達を対象に
8週間にわたるMDMAを補助的に治療を加え
その後の重度の飲酒をする患者さんの割合を調べました。
黒線がMDMA治療をデトックス後に受けたグループを表し、
赤線がデトックスをし、
現在のアルコール依存症治療として有効と言われている治療
(認知行動療法・動機付け面接法)のみのグループを表してます。
結果は、一目瞭然ですね。
幻覚剤のMDMAの補助がある群が
圧倒的に重度の飲酒割合が少ないですよね。
あれだけ、有効だと言われている心理療法をしても
デトックスの9か月後には80%の人がが過剰な飲酒をしてしまうのに対して
MDMAの補助があると21%の割合にまで下がります。
ただ、副作用はないのか心配ですよね。
この実験では、重篤な副作用は確認されませんでした。
例えば、幻覚剤を使いたい欲が発生するや
精神病症状等は確認されませんでした。
*アルコール依存症とLSD治療*
Krebs (2012)のメタアナリシス(エビデンスが一番高い)では、
アルコール依存症に対するLSD(幻覚剤)の有効性を調べ
結果、
アルコールの乱用・断酒において
LSD治療は短期・中期において有効である
と報告されています。
そして、どのくらいの効果があるのかと言うと
現在のアルコール依存症治療よりも
同等、もしくはそれ以上の効果量となっています。
果たして、違法な薬物とは何なのでしょうか?
しっかりと人々の役に立つ薬を見極めて
違法だから危険・合法だから安全という見方を
変える必要がありそうですよね。
*まとめ*
- 幻覚剤は、昔から宗教・心理療法・シャーマンと関係の深い薬物だったが、
脱法ドラックとして規制された。 - サイケデリック研究が伸び、
依存症を含めた精神疾患への
幻覚剤の有効性が認められてきた。 - アルコール依存症の治療として
幻覚剤の有効性が確認されてきている。
お酒の値上げをして、酒害を減らす? アルコール政策
基本的には、アルコールが健康に害を与えることを
無視することが難しくなってきています。
もちろん、個人で飲まないという判断ができるように情報を与えることも大切かもしれませんが
政策で人々ができるだけお酒を飲まない判断を促す手段もありそうですよね。
実際に、私がいるイギリスの一部であるスコットランドが
お酒の法律を変えて、効果判定をしたのでその紹介をします。
その前に、再びお酒の情報を少し出しますね。
*飲む量を少し減らすだけでも良い?*
もちろん、お酒を飲まない方が健康への害は減ります。
実際に、どれほどのお酒なら許容範囲なのかと言う話を
前の記事で書いたので読んでみてください。
結論として、ほぼ飲まないに等しい量しか許容されていません。
ただ、急にお酒を全く飲まないという
大きなライフスタイルの変化は難しそうですよね。
例えば、運動は健康に良いからと言って
運動していない人が、急に毎日30分ジョギングする人がどれほどいるかと言うと
まあ、ほとんどいないでしょう。
なので、たいていが少しずつ
短時間の散歩から始めて、少しずつ距離・時間・速さを向上させていきます。
この少しの運動量の増加ですらも我々の健康を向上させます。
お酒でも、同じことが言えます。
ほんの少し飲酒量を減らすだけで、
被害が大幅に減ります。
Rehmさん達(2011)の研究の図を持ってきました。
縦軸が死亡リスクで
横軸が毎日のアルコールの摂取量です。
見てもらうとわかるように
アルコールを摂取すればするほど
指数関数的に死亡リスクが増加します。
アルコール摂取と死亡リスクは直線的な関係ではないわけです。
そのため、たくさんアルコールを摂取している人が
ほんの少しアルコール摂取量を減らすだけでも
大幅に死亡リスクを減らすことができます。
例えば、毎日100gのアルコール摂取の人が
毎日の量を80gに減らすだけでも
死亡リスクが16%から、半分の8%にまで減少します。
*アルコール広告の規制?*
アルコールの量を少し減らすだけでも、
我々の健康へのダメージを大幅に減らせそうですよね。
その一歩として、何ができるのか。
まずは、広告の規制かもしれませんね。
フランスでは、1991年からアルコール広告の規制が始まっています。
実際に、広告がどれほど飲酒に影響を与えているのか。
例えば、Stautzさん達(2016)によると
アルコール広告の飲酒量への即時効果が
少量ではあるものの、あると報告しています。
飲酒量で行くと
男性では、おおよそ日本酒のお猪口一杯ぶんから
チューハイのレギュラー缶一本ほど増えます。
そして、この研究の参加者はすべてが学生なので
よりアルコール使用の危険性が高い若者を守るには
広告の規制の必要性がありそうですよね。
ただ、アルコールは我々の文化のどこにでもあり
広告の手段も多様であり、企業はいつでも穴をついてきます。
文化で言えば、
成人式のような大人になった証としての飲酒
スポーツで優勝とアルコールの関係
結婚式のお祝い事にもお酒が付きまといます。
広告では、サッカーやラグビーのスポーツ大会のスポンサーをし
企業の名前自体を使っていなくとも、
企業の特徴的なロゴやサインと似たような言葉・形を模倣し
広告を出すことに成功しています。
他にも、アルコールの広告に性的なものや
有名人の起用によってアルコールの宣伝広告を高めていそうですよね。
少しでも酒害を減らすために
広告だけでなく、文化も変わっていく必要性がありそうですよね。
*値上げが飲酒量を減らす?*
前の記事で、依存症は選択の問題なのでは?みたいな話をしましたが
そこで、お酒やたばこの値段が高くなれば
買うことを止める選択をすることがある話をしましたが、
実際に、アルコールの値段を上げた国があります。
それが、スコットランドです。
スコットランドでのアルコールの値上げの結果を少し紹介します。
2018年からスコットランドでは、アルコールの値段に下限を設けました。
つまり、安すぎるお酒の値上げです。
どのくらい差ができたかと言うと
一日一本のビールを1週間で500円ぐらいだったものが
1500円ほどに値上がりしました。
そして、2024年にこの施策は廃止になる予定ですが、
インフレの影響を受け、今後さらに値上げを検討中です。
実際に、どんな効果があったのか。
- 13.4%のアルコールが原因での死亡の減少
- 4.1%の病院への入院の減少
- 5%の急性アルコール中毒等での死亡増加
- 3%の飲酒量の減少
パッと見、結構良さそうですよね。
少しの飲酒量が減るだけでも、大きく酒害を減らせるので
たかが、3%の飲酒量が減っているだけでも
アルコールが原因での死亡は13%と大幅に減っています。
残念ながら、急性アルコール中毒のような死亡が増加しているが
おそらく、コロナ渦の影響があると考えられており、
また、このアルコールの値上げ作戦は
特に危険な飲み方(飲酒量が過剰に多い)をする人には効果がない可能性が指摘されています。
なので、やはり重症度の高いアルコール依存症を持つ人達が
病院に行きやすい環境を作りつつも
個人個人が責任のみ頼った飲酒環境ではなく、
国がお酒の被害を認め、国レベルで働きかけ、人々がより良い飲酒に関する選択をできるように促す政策を打つ重要性がありそうですよね。
*まとめ*
- 少しの飲酒量の減少が
大幅な健康被害の減少 - 広告・文化によって飲酒が促されている
環境を変える必要性がある - お酒の値上げをすると
酒害を大幅に減らせる可能性がある。
アルコールは体に悪い・良い? お酒の安全な量とはない?
私の住んでいるイギリスでは、コロナ渦で2020年
アルコールによる死者数が過去最大になりました。
お酒の売り上げも30%も増加したと言われています。
さらに、科学者の中にはアルコールが一番被害を生む薬物だと主張している人もいます。
その人の自伝があるのでリンク張っておきます。
依存症の事を勉強している人は、この人を知らないという人はいないだろうというぐらい
すっごい有名人です。
ということで、お酒が実際に健康に良いのか悪いのか
見ていきます。
*アルコールの神話*
アルコールは、少しなら健康に良いと言われていたりしていますが、
本当にそうなのでしょうか。
若干、確かに少しであれば健康に良い面がありますが、
全体を見るとお酒が体に悪いことがわかります。
例えば、Whiteさんたち(2001)の研究で
アルコールの摂取量と死亡リスクの関係を調べました。
そして、色々な病気のリスクとアルコール摂取量の関係を
年齢別に計算したモデルがあります。
例えば、虚血性心疾患では以下のような感じになっています。
相対リスクとは、お酒を飲まない人たちの病気の発症リスクを1とした時の
お酒を飲む人たちの病気の発症のリスクです。
虚血性心疾患では、確かに少量の飲酒量では
アルコールの摂取により発生リスクが抑えられていますが、
飲酒量がふえるにつれ、お酒を飲まない人と比べて
お酒を飲む人の病気の発症リスクは
男性ではほぼ変わらないほどに、
そして、女性では発症リスクがどんどん高くなっています。
他の病気とアルコールの摂取量の関係はどうでしょうか。
実は、下記の病気にすべてにおいて、
アルコールの摂取によって
発症リスクが年齢を重ねるごとに、
どんどんと上昇していきます。
他の病気のリストとしか以下があります。
- 口唇・咽頭・口腔がん(最大相対リスク=約5倍)
- 食道がん(最大相対リスク=約4倍)
- 大腸がん(最大相対リスク=約4倍)
- 直腸がん(最大相対リスク=約5倍(女性))
- 肝臓がん(最大相対リスク=約2倍)
- 喉頭がん(最大相対リスク=約2倍)
- 乳がん(最大相対リスク=約2倍)
- 本態性高血圧(最大相対リスク=約4倍)
- 虚血脳卒中(最大相対リスク=約1.5倍)
- 出血性脳卒中(最大相対リスク=約4倍)
- 肝硬変(最大相対リスク=約4倍)
- 慢性肝疾患(最大相対リスク=約2倍)
- 慢性膵炎(最大相対リスク=約3倍)
- 傷害(最大相対リスク=約3.5倍)
実際に、すべてのグラフが見れるように
リンク張っておきます。
F2.large.jpg (1199×1280) (bmj.com)
ということで、お酒が健康に良いという話は
神話に近そうですよね。
これほど多くの病気において、お酒の摂取によって
発症リスクが何倍にも上がるにもかかわらずに
少量の飲酒量による、かすかな虚血性心疾患の発症リスク減少を基に
お酒が健康に良いと言ってしまうのは
無理がありそうですよね。
*飲酒量に安全な量はあるの?*
上記の話によって、
アルコールと癌の関連が良く分かったと思います。
実際に、アルコールをどのくらい飲むと
発がんリスクが上がるのか。
もちろん、お酒という飲み物自体の中身にも
発がん性のものが入っていますが、
それよりも、発がん性のある物質として多くは言っているのは
エタノールとアセトアルデヒドです。
How alcohol damages stem cells and increases cancer risk – new research (theconversation.com)
この2つがアルコール摂取による癌のリスクを上げる
大きな要因と考えられています。
では、どのくらいのアルコール摂取なら安全なのか。
面白い話があり、仮にエタノールを食品添加物として取り扱った場合
どの量であるならば、食品添加物として安全であるのかと言う話があり、
ヨーロッパのThe Europe Food Standards Authority のガイダンスに従うと
毎日50ミリグラムのエタノールなら良いとされています。
それすなわち、年間18gのエタノールが最大の許容量です。
これがどのくらいなのか?
1年で、酎ハイ(7%)で中ジョッキ(320ml)1杯分ほどです。
ビールであれば、中ビン(500ml)1本ほどです。コップであれば、2~3杯程度ですかね。
これは、一日の許容量ではありません。
年間に摂取していい量が、1~2杯です。
これは、アルコールが文化として浸透している社会からすれば
ほぼ、アルコールの安全な許容量はゼロに等しいかもしれませんね。
*アルコールで救われる?殺される?*
最後に、アルコールによって死んでしまった人たちと
アルコールによって命を救われた人たちの割合を
比べたものがあるので紹介します。
私のいるイギリスの話なのですが、
2005年のデータがあります。
女性も同様の結果になっていますが、
基本的に、アルコールが起因しているだろう死亡の方が
アルコールによる死亡予防よりも圧倒的に多くなっており、
特に、若い人たちの死亡割合が比較的高いです。
最近、いろんな国でアルコールの摂取量の推奨の変更が起きていますね。
政府とお酒を売る企業が繋がりを持っていることがあり
なかなか規制に動くことは難しそうですが、
果たして、本当にこのままでよいのかは疑問ですね。
*まとめ*
- アルコールは、いくつかの病気の発症リスクをほんの少し減らすかもしれないが
ほとんどの病気の発症リスクを何倍にも増加させる - 安全なアルコールの摂取量は、ほぼないかもしれない
- アルコールで助かる人より、死んでしまう人の方が
圧倒的に多い。