依存症の衝動・抑制の戦い【依存症定義・理論】
*その瞬間の力が行動を決める*
依存症を理解するためには、
包括的に依存症を捉えた理論が
必要です。
その1つに「PRIME Theory」があります。
「依存症=モチベーション」の立場を取っています。
モチベーションシステムの構造についての
記事をまだ読んでいない人は、
読んでみてください。
PRIME Theory には、
モチベーションを語るための
5つのテーマがあり、
その1つの「その瞬間における焦点」を
解説していきます。
上記の記事で、少し触れてしまいましたが
この記事でもう少し、深く掘っていきます。
*その場の力が行動を決める*
結論として
なにが我々の行動を決めるか。
「その一瞬一瞬における力」が我々の行動を
決めます。
モチベーションと行動は、
非常に動的で流動なものなので、
その瞬間瞬間で、
モチベーションと行動は変わります。
そして、力とは何を示しているかというと
「衝動・抑制力」です。
モチベーションシステムの構造の
下から2番目に位置するものですね。
常に、一瞬一瞬において
この2つの力が戦いながら
衝動力が抑制力を上回れば、
行動への力が発生します。
一方で、抑制力が衝動力を上回れば、
行動への力が発生しません。
ということで、他の記事より
少し衝動・抑制力について
深堀していきます。
*衝動・抑制力*
この2つは、モチベーションシステムの構造の
最下層の反応対して、柔軟性を与えます。
要するに、この2の力の合力が
行動(反応)の開始・停止・調節に影響を与えます。
この2つの力は、
自分自身の内部(生理学的なニーズや感情)と
外部からの刺激(外部環境の引き金)によって
発生したり、
または、
より高位のモチベーションシステムの動機からの
指示によって発生します。
そして、衝動力が発生したにも関わらず
行動が開始されなかった場合、
この力は、渇望として認識されます。
つまり、依存行動・薬物を使用したい衝動力が
何らかの結果、発生したが
依存行動が発生しなかったときに、
我々は、依存行動・物質の渇望を感じます。
よって、衝動が抑えられた結果、
依存行動への渇望が発生し、
我々は今すぐに、緊急事態かのように
依存行動・薬物を求めます。
*抑制力*
抑制力は、刺激や衝動に対する反発的な動機の2つ
(3番目のモチベーションシステム)によって
発生します。
1つ目の刺激によって、発生する抑制力は
我々の精神的努力を必要としません。
なにか、嫌な刺激があれば
無意識に行動を抑制する力を
発生させます。
一方で、2つ目の動機は異なり
我々の努力を必要とします。
要するに、抑制する強い意志が必要になります。
この2つのプロセス(無意識・意識下)によって
我々の行動は抑制されて行きます。
*抑制力についての記事があるので、
ぜひ、読んでみてください。
*本能的欲求と感情*
本能的欲求(Drive)と感情は
モチベーションシステムで重要な要素になります。
*Drive*
Driveの例としては、
空腹・のどの渇き・呼吸の必要性等の
生命の維持に関わるものです。
これらは、時々
完了行動(Consummatory Behaviour)と
呼ばれたりし、
欲求を満たすための行動のことを指します。
このDriveは、2つの内部・外部刺激といった
リソースから発生します。
内部刺激は、生理学的なニーズ(空腹・のどの渇き)で
外部刺激は、依存行動の引き金になる刺激ですね。
これらの刺激が、Drive(欲求)を作りだし、
さらに、Driveは発生したDriveを落ち着かせようとする
衝動力を引き起こし、行動を促します。
加えて、一段上のモチベーションシステムである
動機にも影響を与え、
Driveを落ち着かせるための動機を形成していきます。
*感情*
感情は2つに分けられます。
- 一般的(generalized)
- ターゲットがあるもの(Targeted)
一般的な感情の例は、幸福や悲しみです。
ターゲットがある感情というのは、好き・嫌いといった
感情のターゲットになるものがあります。
これらの感情は、ウェルビーイングや自分のアイデンティティ
そして、自分の価値観に影響を与える刺激・情報が
発生した時に引き起こされます。
ここから、何が言えるかというと
自分の幸福やウェルビーイングにとって良い事を
我々は好み
逆に、反対の事をするものを嫌います。
なので、Drive(欲求)を抑える行動は
好まれて当然ということですね。
つまり、依存行動が好まれて当然ということですね。
この辺りは、「飴と鞭」的な要素と似ていますね。
*期待感の感情への役割*
いかなる時も、我々は
この後何が起こるか考えを巡らせています。
そしての将来の予想は、短期的であったり
長期的なものだったりします。
そして、期待や将来の予想を形成する要素が2つあります。
- 関連づけ学習
- 推測
これらは、脳の機能ですね。
情報・感情・その瞬間のどんな刺激に対しても
行動とその状況のパターンを脳は学習します。
なので、発見したパターンの最初の刺激を
脳が感知すると残りのパターンを脳が予測・期待します。
そして、この期待・予測が
感情を引き起こします。
一番簡単な例は、この後ネガティブなことが起きると
予想・想定していれば
不安・恐怖といった感情を引き起こします。
そして、同時に重要なのが
実際の体験時の事象が発生した時に
予想していた出来事とずれがあるときです。
例えば、今後ポジティブなことが起きると予想していて
実際は、よりポジティブな結果が起きた場合
より我々は、幸福を得ます。
ネガティブな場合も同様です。
なので、予測によってずれが生じると
より予想によって生まれた感情を高めてしまいます。
依存症であれば、実際に期待していた
薬物の効果よりもより良いものが起きれば
より幸福を与え、
薬物を使用しないことで
嫌なことが起きる(離脱症状等)と予想するが
実際の経験としてより嫌なことが起きれば、
より強いネガティブな感情が発生します。
*覚醒度*
Driveと感情と覚醒度の間の関係は、
他害に影響を与えあっています。
覚醒度は、
どのレベルのモチベーションシステムを
使用するかに影響をあたえます。
つまり、感情の影響を受けると
覚醒度がより高くなり
モチベーションシステムの第4層の
評価に到達できなくなります。
要するに、
興奮しすぎて
分析的思考の評価が
できなくなっている状態です。
また、
高い覚醒度は
我々の注意力をより1つのものに
注意を集めます。
よって、依存症では感情が発生すると
覚醒度が高くなり、論理的思考ができなくなり
より依存物質・行動に注意力が増している状態である。
*覚醒度と論理的な思考についての
記事もあるので、ぜひ読んでみてください。
*まとめ*
- 一瞬一瞬のその瞬間における
衝動・抑制力の合力が
我々の行動を決めている。 - 衝動・抑制力は、生理学的ニーズ(空腹・渇き)・
外部の引き金・感情・動機によって形成される - 学習による未来への期待・予測が
より強い感情を引き起こし
より強い衝動・抑制力を作り出す。 - より強い感情は、覚醒度を上げ
より高位のモチベーションシステムである
論理的な思考(評価)の妨げをし、
より依存行動・物質へ執着を促す。
*記事関連のおすすめの本*
「情動はこうしてつくられる」
「How Emotions Are Made」
この本は、感情を新たな視点で
捉えた本でかなり興味深いです。
PRIME Theoryで触れているような
予測と感情の関係がより詳しく書いてあります。
少しでも、感情に興味があれば
一度は読んでおいて損はないと思います。