CuriousHunter 依存リハ

好奇心のままに、依存症を探索

依存症の過剰な欲求は病的ではない【依存症の定義と理論】

*依存症の全容は、過剰な欲求*

 

過去の記事で、
いろんな依存症の理論を説明してきました。

 

例えば、

  • 依存症=病気
  • 依存症=認知機能障害
  • 依存症=選択

ただ、どれも依存症の1側面しか捉えていません。

 

その場合、依存症の多様な側面を包括的に
捉えた依存症の理論がないのかと言ったら、
あります!

 

その1つを紹介していきます。

この理論は、
物質使用障害のみではなく
行動嗜癖の理論の骨組みにもなっています。

行動嗜癖の例としては、
食習慣・性行為・運動・ギャンブルです。

 

 

 

 

*過剰な欲求モデル*

まず、理論の名前の紹介です。

「The Excessive Appetite Model of Addiction」

(Orford, 2001)

 

Excessiveが、過剰
Appetiteが、食欲・欲求・欲望・興味

 

ということで、日本語に簡単にすると
「依存症=過剰な欲求」である。

 

 

そして、この理論の中心となる特徴は
2つの依存症へプロセスがあり、
それらは、多様な社会文化的状況で発生し、
我々を、ある特定の行動に縛り付けてしまいます。

その結果、
コントロール不能になり
「病気様の症状」が発生します。

 

2つの依存症へのプロセスは、
後で説明します。

 

なぜ、病気様なのかは
「依存症=選択」に基づいていますね
それが何かというと、

  • 多くの人が、正規の治療を受けることなく
    依存症から回復している事実

 

そして、この理論では
様々な異なる依存症の共通の特徴
様々な異なる依存症においての
成功する回復の共通項について言及しています。

 

「依存症=選択」の記事があるので、
ぜひ、合わせて読んでみてください。

 

curiousquest.hatenablog.com

 

 

*社会のプレッシャーが抑止力*

まず、Orfordさんが指摘した点は、
たいていの依存行動の分布は
以下のようになります。

依存物質・行動の統計分布

グラフを見てもらうとわかると思いますが
大抵の人が依存につながる行動・薬物の量は
中等度にとどまります

 

そして、その普通の量から逸脱(過剰になる)すると
どんどん人の数が減っていきます。

 

なぜ、このような現象がみられるかというと
社会的同調が原因だと考えられています。

社会的同調の例

  • 過剰な行動による健康被害の懸念
  • 性格的要因
  • 宗教的信条
  • 家族への影響
  • 政府の政策

このような要因によって、
多くの人は、みんなが所属している
中等度のレベルの行動・薬物使用に
居続けようとします。

 

これが、依存症の社会的側面
捉えていますね。

 

そのような理論は、「依存症=逸話」でしょうか。
リンク張っておくので、興味のある人はぜひ。

 

curiousquest.hatenablog.com

 

 

*第1の依存プロセス*

1つ目の依存症へのプロセスは、
基本的には、正の強化の学習メカニズムです。

 

要するに、
行動・薬物によって以下が引き起こされます

  • 急激な感情の変化・報酬(正の強化:学習)
  • 条件付けによる学習
    (古典的条件付け・オペラント条件付け)
  • 行動プログラム(行動・薬物摂取)の記憶
    (自動化された依存行動)

 

それらが、
過剰な欲望をどんどん増加させていきます。

 

その結果、
依存症の認知バイアスを形成していきます。
(依存行動・薬物に関連した情報が優先)

 

そして、
この報酬をより欲するプロセスには
ドーパミンが関係する中脳辺縁系が関わっている
考えられています。

 

上記のことを説明する理論の記事もあるので
何を言っているのかわからない人は、
まず、下記の記事を読んでみてください。

 

curiousquest.hatenablog.com

curiousquest.hatenablog.com

curiousquest.hatenablog.com

 

 

*第2の依存プロセス*

この過程で、重要になるものが
「獲得された感情調節サイクル」です。

このサイクルが、より依存行動・物質を促進します。

 

獲得されたものなので、
もともと無かったものだが
繰り返しの行動によって形成された
新たな感情調整サイクルです。

 

この感情調節サイクルの例としては、
ネガティブな感情を打ち消すための
依存行動・物質へのモチベーションです。

 

ギャンブルの場合だと、
賭けに負けた時の感情の結果、
もっとギャンブルをしようとする
モチベーションですね。
(Orford et al., 1996)

 

 

そして、
このサイクルに影響を与える要因の他の例は、
「禁欲侵害効果(Abstinence Violation Effect (AVE)」です。
(Cummings et al., 1980)

 

これは、スリップをきっかけに
(ちょっとした依存行動・物質の使用)
自分の中のルール(禁欲)が侵害されたことで、
自分の信念と行動にずれができ、
このずれが感情調節サイクルに影響を与えます。

その結果、人によっては
その感情の不快感を解消するために
自分の過ちに理由付け・正当化をし
過去の依存行動・物質使用のレベルに戻ってしまいます

割と、この禁欲侵害効果は面白い概念なので
他の記事でより詳しく取り扱います。
スリップ(ちょっとした依存行動・物質使用)で止まる人と、
リラップス(元の使用レベルに戻る)人の特徴に関連してきます。

 

 

*主張論争の結果*

まだまだ、過剰な行動への欲求に影響を与えるものがあります。

それが、「主張のぶつかり合い」です。

これは、「認知的不協和(Cognitive Dissonance)」
呼ばれるものです。

 

認知的不協和とは、
自分の認知を変えることで、
自分の行動を正当化させる
心のプロセスです。

そして、どんな時に変える必要があるのか。
それは、自分の中にある2つの異なる感情が
同時に発生した時です。

この瞬間に生じる心理ストレスを
軽減するために、
z自分の認知・行動を捻じ曲げて、
自分の行動を正当化していきます。

 

有名な例は、
イソップ物語のキツネと酸っぱいブドウ
ですね。

 

 

この認知的不協和のストレスは
困難な感情・困惑・鬱・精神的緊迫として、
心身に表出してきます。

その結果、これらの不快感を取り除こうと
より依存的な行動・薬物使用を促進します

 

 

*過剰な欲求は病的ではない*

上記の理由を基に、我々の行動は過剰になっていきます。

ただ、Orfordさんは
この過剰な行動・物質への欲求が導く
最終的な結果は、
それらの行動・物質を減少・停止
であると言っています。

 

どうして、病気でないのかと思う理由には
回復(禁欲・減欲)を成功させるために必要な
どの依存症においても言える共通の要素が
以下の3つであるためです。

  • 社会的要素
  • 道徳的要素
  • スピリチュアル的要素

薬物療法や心理学的治療とは異なる
アプローチですよね。

 

上記を1つずつ説明するときりがないので
これらが意味することは

要するに、
象徴的な死を一度経験し、過去の自分を放棄し
もう一度自分自身を再教育しなおすことです。
(Sabrin &Nucci, 1973)

これは、スピリチュアル的ですよね。

 

 

また、重要な社会的要素の例としては

  • 自己の解放
    (Prochaska & DiClemente, 1992)
  • 人間関係の再構築
  • 自分自身と大切な人への責任
  • 恥をかいた経験

 

道徳的な要素は、アルコールアノニマスのような
自助グループで形成されると考えられています。
(Miller, 1998)

 

これらが、多様な過剰な欲求を導く
行動・物質の回復の共通項になってきます。

 

 

*まとめ*

  • 「依存症=過剰な欲求」は、多様な依存症の理論を
    包括的にとらえた理論
    (学習理論・選択理論・社会心理学的理論)
  • 正の強化学習が依存症の第1プロセス
  • 行動・薬物の結果、獲得された感情調節サイクルが
    依存症の第2プロセス
  • 認知的不協和が、感情サイクルを乱す。
  • 依存症の過剰な欲求は、
    社会的要素・道徳的要素・スピリチュアル的要素の
    3要素で最終的に回復し、病的なものではない。

 

*記事関連のおすすめの本*

「Excessive Appetites: A Psychological View of Addictions」

 

申し訳ないですが、これほど複雑な内容に
関連した書籍は日本語でも英語でもないです。

なので、
この「依存症=過剰な欲求」の英語書籍を
紹介します。

結構、お値段がしますが
本当に依存症を理解したい人は
ぜひ、読んでください。

英語ですが、ぜひ読んでください。

すーっごい勉強になります。

今では、翻訳機が精度が上がっているので
英語ができなくても読めると思います。

ちなみに、私の友達は全部自分の
言語で翻訳し、
自分の言語を英語に翻訳して
課題をやっている人がいるぐらいです。