自動化された依存行動と対抗する薬物の渇望
*自動化された依存症*
過去の記事で、認知機能が
依存症の要素として
重要な一部である話しました。
まだ、読んでない人は
ぜひ、読んでみてください。
そして、その認知的要素を考慮した
依存症の理論も存在します。
割と、「依存症=習慣」と似ていますが
主張としては、
「依存症=自動化された行動構造」です。
詳しく見ていきましょう。
依存症と習慣についての記事もあるので
気になる人は、読んでみてください。
*薬物摂取と薬物衝動の依存症認知モデル*
まず、名前の紹介です。
「A cognitive model of drug urges and drug-use behaviour」
(Tiffany, 1990)
urgesは、衝動みたいな感じですね。
drug-use behaviourが、薬物使用行動ですね。
なので、
「衝動と薬物使用行動の認知モデル」
って感じでしょうか。
名前だけだと、パッとしないのですね。
ただ、
キーワードが「薬物衝動」と「薬物摂取行動」です。
これらを認知の視点(脳の機能)で見ていきます。
この2つを解説しながら、
依存症とは、なにか見ていきましょう。
*薬物衝動*
薬物の衝動は、
主観的・感情的で薬物使用の
モチベーションが高い状態です。
そして、
薬物の渇望には2つの側面があると考えられています。
- 意識的な自動化された行動の抑制
- 行動の結果による幸福感への期待
これらの側面からわかるのは、
薬物の渇望は、
薬物摂取を抑制・促進の
どちらにも役割がある
ことです。
要は、
一生懸命に薬物を摂取しないように
努力して行動を抑制するのも薬物の渇望
であり、
薬物を使えたら、
楽になれる・気持ちよくなれる
そんな期待があるゆえの薬物の渇望
でもある。
これらを理由に、
衝動的な薬物使用は、
薬物への渇望のみでは説明できない
ことを表しています。
ようするに、
薬物の渇望は
衝動的な薬物再使用を引き起こすためには
必須の条件ではあるが、これのみでは不十分
だと考えられています。
(Ludwing & Wikler, 1974)
*自動化・非自動化の過程*
薬物の渇望のみでは、
薬物の使用行動を引き起こせないことが
分かってきましたが、
その場合、なにが薬物使用を引き起こしているのか。
それが、認知の話になってきます。
理論としては、記憶の中に
自動化された薬物使用のプログラムが保存されていることが
問題として考えられています。
自動化の過程の特徴と非自動化の過程の特徴を
まず見ていきましょう。
*自動化の過程*
自動化の特徴
- 繰り返しの行動によって、
比較的速い行動になる - 引き金が存在下では、
無意識下で行動が開始される - 行動をコントロールできない
(停止することが難しい) - 繰り返しの行動によって、
行動を起こすための労力が不必要。 - 無意識下で、行動が実行される。
ようするに、繰り返しの行動により
行動がプログラムされ、記憶として保存されます。
なので、その行動プログラムを発動すると
自動的に行動が開始され
プログラムが終了するまで行動は最初から最後まで
実行される。
薬物摂取行動に当てはめてみると、
繰り返しの使用によって、
薬物使用の自動化されたプログラムが形成され
記憶に保存されます。
よって、あとはこのプログラムを作動させると
自動で薬物摂取を最初から最後まで
完結させてくれます。
*非自動化の過程*
非自動化は、自動化の行動の逆です。
非自動化の特徴
- 比較的遅いプロセス
- 意識下で行われる。
- 行動の意図のもとに行われる
- 認知的な労力が必要。
そして、薬物衝動・渇望は
この自動化されていないので
非自動化の過程に含まれます。
つまり、薬物衝動・渇望は
我々の意識下で多大な労力を要し
かつ、比較的遅いプロセスである。
*渇望は努力の証拠*
薬物摂取は、繰り返しの使用により
自動化された行動であり
頭の中に行動プログラムがある状態です。
なので、薬物摂取は労力を必要とせず
素早く、無意識のうちに行動を完遂します。
一方で、薬物の渇望は
まったく正反対の特徴を持ちます。
そして、薬物の渇望には
2つの側面があると言いました。
「行動抑制」と「薬物摂取促進」
そのため、薬物の渇望は
頭の中の薬物摂取行動のプログラムのスイッチを
押さないように意識的に多大な努力をしている場合と
快楽を求めて、薬物摂取行動のスイッチを押す
手伝いをしている場合
があると考えられています。
それが故に、薬物の渇望のみでは
薬物摂取が引き起こされない理由です。
時には、薬物を使わないように
意識的に努力をして断酒・喫煙・禁薬等を
目指している場合もあるということです。
*自動化された薬物摂取*
この理論によると、
薬物の渇望にプラスの側面がある
と考えられており、
非常に重要なポイントをとらえている思います。
ただ、忘れてはいけないことが
薬物摂取の引き金の存在下では、
無意識に、繰り返しの薬物摂取による
自動化された薬物摂取の行動計画が発動され、
非意識下で素早く行われ
止めることも難しい状態です。
つまり、依存症は自動化された行動であり、
それが故に、制御がある特定の条件下では難しい。
そして、残念ながら
それを止めるためには
多大な意識的な労力が必要で
それこそが、薬物への渇望である。
しかし、
この非自動化の過程は
自動化された薬物摂取計画と比べると
比較的スピードが遅く
薬物摂取を止めるのは難しい可能性がある。
薬物への渇望や衝動への対応や
意志の力についての記事もあるので
ぜひ、読んでみてください。
*まとめ*
- 衝動的薬物摂取は、薬物への渇望と薬物摂取行動の
認知的側面で説明できる。 - 薬物への渇望のみでは、薬物摂取は起きない。
- 薬物の渇望は2つの側面がある
(薬物摂取抑制・促進) - 薬物への渇望は、自動化されてなく
意識的な努力を必要とする - 薬物摂取行動は、自動化され
引き金の存在下では、素早く
労力を必要とせず、無意識下で行動実行される。
*記事関連のおすすめの本*
「教養としての「意識」機会が到達できない最後の人間性」
「Feeling and Knowing: Making Minds Conscious」
日本で、この本は最近出版されたっぽいですね。
英語は、数年前ですが。
この本が依存症に深く関連するかというと、
どうだろうかと思いますが、
この記事で、意識とか無意識とか
多く話したのでの紹介します。
まあ、割と普通に使ってしまう単語なのですが
「意識」ってよくわからないよねってのが
哲学者の間での通説なんですよね。
ただ、この本の著者のアントニオさんは
そう思ってなくて、心理学・神経科学・AIによって
意識の謎を解き明かそうとしています。
そして、意識の理解がより良い人生を送れる。
そんな感じの本になっています。
まだ、日本語版はレビューがなかったのですが
購入して読んでみて、
最初のレビュー書いてみて下さい。
英語版