依存症回復に必要なもの
資本力と依存症回復
ときより、依存症は「意思の弱さ」が問題だと言う人がいますね。
さらに、やめると決意して病院に行かずにやめた人で
「意思の弱い私が依存症を克服したから
あなたもできる」という言葉も聞きますね。
どうなんでしょうかね。
その人たちは、たまたま
ラッキーだったかもしれないよねって話をします。
※個人の努力や意思の強さも尊重しています
*治療なしで回復する人*
実際、どのくらいの人が治療を受けずに治るのか。
アメリカの研究で(Lopez-Quintero et al., 2011)
それぞれの薬物依存が寛解する年数を調べました。
(使用を中止し、臨床上意味があるレベル)
- コカイン :4年で50%
- 麻薬 :6年で50%
- アルコール:16年で50%
アルコールはなかなか依存の人が減りませんが
平均しても約10年ほどで依存の人が半分に減るようです。
そして、基本的に薬物使用の年齢は約20歳なので(Kessler et al., 2005)
約30歳前後で50%の何かしらの薬物依存は寛解状態になるとHeymanさん(2013)が言ってます。
さらにLopez-Quinteroさんの研究に参加した参加者の治療状況を調べると
参加者の16%だけが、治療中でした。
このことから、ほとんどの人が治療を受けずに
30歳前後で薬物依存が寛解すると言えそうです。
逆に「依存したままの人」の割合は
- コカイン :40歳までで5%
- 麻薬 :50歳までで8%
- アルコール:60歳までで15%
(Lopez-Quintero et al., 2011)
やはり、一定の人は治療なしでは薬物依存のままのようですね。
*なぜ、治療せずに回復できたのか*
薬物の使用を中止する人たちに
いくつか特徴があります。
例えば
- 他の精神疾患がない
- 結婚している
- 経済的不安
- 刑罰への恐れ
- 子供たちや家族からの信頼を懸念
- 違法行為への懸念
- 高収入
- 学校生活が長い
(Waldorf, 1983; Biernacki, 1986; Wadorf et al., 1991; Warner et al., 1995)
他にも、薬物をやめた理由を聞いた研究では
- 良い親になりたかった
- 両親に誇ってもらえる人になりたい
- これ以上の家族に恥をかかせられない
(Premack, 1970; Jorquez, 1983)
これらを考慮してHeymanさんは、
薬物をやめる理由は倫理的な観点の懸念であると言ってます(2013)。
確かに、家族や周りの人にどう思われるか気にしたり
刑罰等は、倫理的な観点ですよね。
という感じで依存症から回復するために必要な要素や特徴ってなに?
ってものを考えた人がいます。
*回復資本*
直訳したのですが、
元の単語は、「Recovery Capital」と言います。
回復資本の定義(簡単な直訳)
:物質乱用の停止を開始し維持するために個人が使用できる資源の合計を示す。
(Cloud & Granfield, 2008)
要するに、
「回復に必要なものをどのくらい持っていますか?」ってことですね
資源には大きく4つの資源があります。
- 社会的資本
- 身体的資本
- 文化的資本
- 人間的資本
(直訳です)
1.「社会的資本」
ー 人生を豊かにする社会コミュニティーの一員であること。
(例:友人関係、家族等 - コミュニティからの期待や恩義が回復の手助けをする)
2.「身体的資本」
ー お金にまつわる資産
(例:財産、所有地等 ー 健康保険に入れる。専門性のある人に手助けをしてもらえる。退職し回復病棟に入れる)
3.「文化的資本」
ー 個人の興味を社会的な規範の中で表現でき、個人のニーズや機会を満たせる
(例:コミュニティーから作り出される
価値観、信念、考え方、個人の気質等 - 社会規範を受け入れ、その規範の中で自分の利益を得られる)
4.「人間的資本」
ー コミュニティーや社会の中で機能するために必要な個人の特性や機能
(例:知識、スキル、教育レベル、健康 ー 就業するのに必要な能力。コミュニケーション能力。精神状態。)
これらの資本が多ければ多いほど、依存症からの回復の旅路を開始・維持することが容易になります。
(Laudet &White, 2008)
逆に、資本が少なければ少ないほど、治療を始めるのが難しく、継続もしません。
*資本力に悪影響を与えるもの*
回復資本にダメージを与えるものがあります。
依存症にはどれもつきものですよね。
依存症と精神疾患の合併はよく頻繁に報告されています。(Schuckit, 2006)
違法薬物の使用により、逮捕され刑務所に入ることもあります。
依存症に対するスティグマは強いですよね。
私の子供のころは、強烈なCMがありました。
キャッチコピーは、「薬物やめますか?それとも、人間をやめますか?」
薬物依存症の人を悪魔のような扱いをしていましたよね。
もしかしたら、薬物の使用の抑制になるかもしれませんが、すでに使用している人にとっては回復を妨げるものだったかもしれません。
差別も事実存在します。
(van Boekel et al., 2013)
そして、逆に治療なしで回復している人たちは、
そもそもの回復資本力が高く
(コミュニティに恵まれている?、財産がある?仕事がある?他の精神疾患がない?等)
そのおかげで、ストレスが少なく、QOL(生活の質)も高いです。
それが故に、禁煙や禁酒が長続きします。
(Cloud & Granfield, 2008)
ストレスが低いのは重要ですよね。
前の記事で、ストレスと依存症の密接な関係について書いたので、ぜひ読んでみてください。
*まとめ*
- 多くの人が治療なしで依存症から回復する
- 依存症の回復には資本が手助けになる
- 回復資本(社会的、身体的、文化的、人間的)
- 治療なしで回復した人は回復資本をたくさん持っている
- 回復資本を減らす要因は、薬物依存と密接に関係がある。
今後、どうやって回復資本を増やすかお話しします。
個人レベル、コミュニティーレベル、もしかしたら、国レベルで行う必要があるかもしれませんね。
*記事関連おすすめの本*
「CRAFT (Community Reinforcement and Family Training)」
CRAFTは、結構有名ですかね。
家族のためのプラグラムになってます。
薬物依存で苦しむ家族のために、作られたプログラムです。
回復資本に、コミュニティーの重要性が含まれています。
どのようにして、支援したら回復を促せるのか
気になる人は、ぜひ読んでみてください。
ストレスは依存症の最大の敵(再発)
*スリップ と依存症の関係*
ストレスと依存症の最終章ですね。
序章; ストレスとは?
1章; ストレスと依存症発症
2章; ストレスと依存症維持期
3章; ストレスと依存症再発
おそらく、読者様のなかでも
断酒や弾薬の時期と再発の時期のループの経験があると思います。
この記事では、そのサイクルをストレスを使って説明していきます。
*依存症の経過*
本題に入る前に依存症の流れをおさらいして、
今、我々がどこにいるかはっきりさせますね。
- 青色
ー 薬物を使用し始めた時期。
ー 薬物使用とともにより薬物を欲するようになる - オレンジ色
ー 依存症になり、毎日同じような量の薬物摂取が必要になる - 緑色
ー 薬物使用をやめたことにより、禁断症状により
一時的に薬物の欲求が高まるが次第に押さまる。 - 赤色
ー なにかをきっかけに薬物探求行動が復活。
青色・オレンジ色の時期とストレスの関係については
以前の記事で取り上げたので読んでみてください。
この記事では、緑色と赤色の時期とストレスについて
取り扱います。
実際にグラフを見てもらうと
薬物関連刺激(例;注射器、居酒屋、喫煙場所 等)・ストレスを与えるだけでも
薬物探求活動が一気に上昇していますね
(Stewart, 2000)
みたいな研究を見てみましょう。
*機械ストレスと再発の関係*
ストレスには、いろんな形があります。
そのうちの一つの機械的なストレスと依存症再発には
深い関係があります。
機械刺激は、身体に対するストレスです。
このストレスが断酒・禁薬等の時期にどのような影響を与えるのでしょうか。
Psychopharmacology, 1996, 1998, 1999. Neurosci, 1996では、コカイン・ニコチン・アルコール・ヘロインの研究がありますが、
この記事では、アルコールだけを取り上げます。
基本的にどの薬物も似たストレス反応を示しています。
この実験では、ネズミさんを依存症にさせて
その後、禁酒させました。
禁酒しているネズミさんたちに3つの介入をしました。
- 無条件に生理食塩水を与える。
- 無条件にアルコールを与える。
- 無条件に電気刺激を与える。
その後、報酬(アルコール)をもらうためにレバーをどの程度一生懸命押すのか、
2つの方法で反応を見ました。
- レバーを押して、アルコールがもらえる場合(報酬あり)
- レバーを押しても、アルコールがもらえない場合(報酬なし)
この、ネズミさんたちは事前に依存症になっており
レバーを押すとアルコール(報酬)がもらえることを学習しています。
グラフを見てもらうと
アルコール(薬物自体)を禁酒中に摂取する時より、
ストレス(電気刺激)を与えられているネズミさんの方が
よりアルコールを欲してレバーを押しています。
いかにストレスが依存症にとって大きな影響を持っていることがわかりますね。
*ストレス反応と依存症の再発*
ストレス反応として、よく知られているのは
ストレスホルモンの放出です。
専門用語ではHPA axisと呼ばれているもので
3つの体の部位でストレス反応がコントロールされています。
- 視床下部;脳の総合中枢
- 脳下垂体;ホルモンを体中の臓器に放出
- 副腎;ストレスホルモンを放出
このHPA axisが依存症では問題が起きています。
Kreek & Koob(1998)では
- 依存症からの禁断症状はHPA axisを活性化(過剰なストレス反応)させる
- HPA axisの調整不良が数週間から数か月続く
- HPA axisの機能不全が薬物の渇望と依存症再発に影響を与える
よって、依存症になるとストレス反応が異常になり
より体はストレス反応を示すようになり
長期間ストレス反応異常が続くため
再発の原因として、ストレスは大きな意味を持ちそうですね。
*心理学的ストレスと再発*
ストレスには、機械的な刺激以外にも
心理的なストレスも存在します。
Shinha et al(2000)では、
ストレスを感じた情景を思い出すことで、
心理学的なストレスを引きおこし、
その後のアルコールの渇望を調べました。
比較条件1
- 普通の情景(ストレスを引き起こさない)
- ストレスを引き起こす情景(対人関係 等)
- 薬物関連の情景(居酒屋にいる 等)
比較条件2
- 情景の想像中
- 情景の想像後の休憩中結果
結果
心理的ストレスが薬物関連の情景の想像と比較しても
十分にアルコールの渇望を引き起こしていますね。
グラフを見てもらうと一目瞭然ですね。
ストレスがいかにすぐに手に入れることができる報酬(薬物)を手に入れて
ストレスからの解放を促している可能性がありそうですね。
他にも同じ研究で、心理学的ストレスが
- 不安の上昇
- 心拍数の上昇
- ストレスホルモンの上昇
を引き起こしていると報告しています。
*まとめ*
- 機械的ストレスが依存症の再発を促す可能性あり
- 心理的ストレスが依存症の再発を促す可能性あり
- 依存症ではストレス反応に異常があり、
長期に続くため禁○○期においてもストレス反応に異常あり。 - ストレス反応の異常が禁○○期から依存症再発を促す可能性あり
*記事関連のおすすめの本*
「エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する」
がんばることもストレスだったりしますよね。
頑張りすぎと言われて、休む努力をしてしまう人もいます。
休むことに努力がいるのでしょうか。
頑張らずに、成果を出して、ストレスのない日常
憧れますよね。
気になる人は、ぜひ読んでみてください。
ストレスは依存症の最大の敵(依存症維持期)
*ストレスが依存症のすべて(依存症維持期)*
ストレスが依存症に密接に関係しています。
この記事では、依存症を3つに時期に分けたうちの
1つの維持期におけるストレスの影響についてです。
まだ、他のストレスに関する記事を読んでない方は
ぜひ、以下の記事も読んでみてください。
*抗ストレス剤と依存症の維持*
ストレスがどのように依存症を維持するのか
理解を深めるための実験がたくさんあります。
1個目は、抗不安薬のベンゾジアゼピンを投与した場合
薬物摂取の影響を確かめた実験があります。
2つの依存症になったネズミさんのグループを作りました。
- レバーを押したら報酬として食べ物(報酬)を摂取
- レバーを押したら報酬として薬物=報酬(コカイン)を摂取
どちらのネズミさんも抗不安薬を与えられ、
ストレスが低い状態にしました。
どの程度一生懸命にネズミさんたちが報酬をもらおうと
レバーを押したかを確認する。
- レバーをたくさん押し報酬を摂取するほど
その行動が強化されていることを表す。 - 一定ならば、維持されていることを表す。
- レバーを押さなくなれば、行動が消滅したことを表します。
Goedersさんの研究では、
アルプラゾラム(ベンゾジアゼピン系の
抗不安薬)が使用されています。
結果
抗不安薬の投与が多くなると(=不安が減る)
薬物(コカイン)の摂取が大きく減少し,
食べ物の摂取はほぼ影響がありませんでした。
(Goeders et al., 1993)
不安が減ると、薬物の使用が減っていきそうですよね。
*ストレスホルモンの抑制と依存症の維持*
ストレスホルモンで有名なものは
コルチゾールですよね。
ストレスを感じるとこのホルモンが放出されます。
このストレスホルモンを合成させないようにした
依存症のネズミさんたちが
コカインをどの程度摂取するのか確認した実験があります。
Goeders & Guerinさんたちは(1996)
メチラポンというコルチゾールを合成を阻止する薬を
ネズミさんに与えて、レバーを押してコカイン(報酬)をどの程度欲するのか調べました。
結果は、明らかですね。
メチラポンの投与量が増えると
コカインの摂取量が減っていってますね。
プラセボは、メチラポンを与える代わりに
食塩水を与えています。
この研究でも、依存症の維持にはストレスが
関わっていることを示唆していますね。
*ストレスホルモンの受容体の阻害の依存症の維持*
ストレスホルモン単体では特に役に立たず、
ホルモンが受容体という
情報を受け取る場所にくっつくことで
体はストレス反応を示します。
Goeders & Guerinさん(2000)にさらに
このストレスホルモンの受容体を阻害する薬を投与することで
依存症のネズミさんたちと薬物摂取行動に
影響を与えるか調べました。
結果は
禁薬物期のネズミさんと同じぐらいの反応を
ストレスホルモン受容体の阻害をされたネズミさんたちは見せていますね。
プラセボという、偽物のストレスホルモン受容体の阻害薬を与えられて
ネズミさんたちと比べても、明らかな薬物摂取行動の減少が
みられましたね。
*まとめ*
- ストレスホルモンのコルチゾールの合成を阻害すると、
依存症発症後の薬物摂取量を減らす。 - ストレスホルモン受容体の阻害をすると
依存症発症後の薬物摂取量を減らすことができる。 - ストレスが依存症の維持に役割がある
次の記事は、禁酒や禁煙の期間における
ストレスの影響の記事になります。
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*記事関連のおすすめの本*
「精神科医が教える 毎日を楽しめる人の考え方」
ストレスの話ばっかりで、つらいので
明るい話を最後に入れます。
著者の樺沢 紫苑さんはかなり有名ですよね。
Youtubeも確かやっていたり、たくさん本も書いているので。
その人が、最近書いた本になりますね。
まあ、考え方って大切なんですよね。
なぜかというと、
Aというイベントが起きた時に
みんながみんな同じようなBという反応を示さないですよね。
例えば、禁酒に失敗しました。=A
- もう自分には無理だとおもい。
あきらめる=B1 - そういうこともあるよねと思えて、明日からまた頑張れる。=B2
その理由が、考え方だと思うんですよね。
他人から、こう考えるべきと言われるのは
どうかなと思いますが
参考にする程度ならいいと思います。
ぜひ、読んでみてください。