CuriousHunter 依存リハ

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アルコール依存症の回復とは?【依存症回復】本当に目指すべき回復のゴールと手段。

過去の記事で何度か、依存症回復とはなにか?触れてきました。

 

 

今回は、少し歴史・現在の依存症回復の定義のトレンドをみながら依存症回復とはなにか?
考えていきたいです。

 

 

 

*依存症回復の定義が必要か?*

研究者からするとある一定の依存症回復の定義は重要です。

理由は以下です。

 

  1. より現場での依存症の経過・症状を理解しやすい
  2. より依存症治療の評価・普及・発展を促進する
  3. より当事者・家族・友人・医療従事者・組織・政治家の依存症の理解を深める
  4. 依存症回復の希望を示すことで、依存症を取り巻くスティグマを取り除く可能性。
    (Witkiewitz et al., 2020)

 

これらを達成するためにどんな歴史・現在の依存症回復の定義を見ていきましょう。

 

 

*診断基準からみるアルコール依存症回復*

診断基準には、大きく2つあり
DSM-5とICD-11があります。

 

DSM‐5では、4つの症状グループ(生理学的・コントロール不能・薬物中心の活動・薬物使用問題)に分かれた
11個の症状を過去12か月の間に2つの症状を有している場合
アルコール使用障害(AUD)として診断されます。

 

そして、DSM‐5はAUDの寛解の定義も
無症状の期間を基に定めています

 

*アルコール依存の寛解の定義(DSM‐5)*

  • 早期寛解:AUDの症状が3-12か月間なし
    (渇望は例外)
  • 維持寛解:AUDの症状が12か月以上なし
    (渇望は例外)

 

DSM‐5からみるとあくまで回復ではないですが
症状の有り無しを基に寛解を定義していそうですね。

しかし、渇望は他の症状と比べて長く続くことをにおわせてますね。

 

一方でICD-11では、6つのAUDの症状のうち
過去12か月間に3つの症状を有すると
アルコール依存と診断します。

そして、DSM‐5と同様に寛解の定義を示しています。

 

*ICD-11のアルコール依存の寛解

  • 早期完全寛解:断酒期間が1-12か月間
  • 部分維持寛解
    大幅な飲酒量の減少が12か月以上継続
    +無症状
  • 完全寛解:12か月以上の断酒期間

ICD‐11をみるとDSM‐5と比べると
ICD‐11は飲酒量・断酒状態であるかを基に
アルコール依存から寛解しているか決めていそうですね。

 

一方で、DSM‐5は飲酒量に関係なく
症状の有無にのみに頼り切った
アルコール依存症寛解の定義にみえますね。

 

 

*過去のアルコール依存回復の定義*

*1700年代のアルコール依存回復*

古いもので、1700年代に
アメリカのお医者さんのRushさんがハームリダクション的なニュアンスを含みながら
こんなこと言ってます。

 

「断酒は重要であるが、一時的な多量飲酒は問題ない。
一時的なビール・ワインの使用によって、断酒習慣がつらいと思うことは無く
むしろ、健康な体と心の平穏を保てた」
(Rush, 1785)
的なことを言ってます。

 

 

久しぶりに、興味深い意見を見つけました。

 

 

依存症回復において、断酒は重要だが
ハームリダクション的に飲酒をしていることを良しとしている
1700年代と比べて1800-1900年ではアメリカで禁酒運動が起きました。

 

*1800-1900年の依存症回復*

禁酒運動は、断酒を促進する運動で
その後、断酒を単一のゴールとして定め
最終的に、アルコールを違法にしようとした運動です。

 

この流れに追随し、AAのようなアルコールアノニマスが続き
生涯断酒によるアルコール依存症回復を示してきました。

 

しかし、AAのビッグブックには
断酒はアルコール依存症を定義するのには
不十分であるとも言ってます。

 

そして、断酒が必ず必要という考えが
現在の依存症回復の定義に影響を与えていますが
1900年後半に変化が起こり始めます。

 

*1900年後半の依存症回復*

精神科医のPattisonと心理士のMarkとLindaさん達が現代のアルコール依存症回復の定義に大きな影響を与えました。

 

アルコール依存症回復は、必ずしも断酒と関係があるわけではない。」

 

なんでこんなことをいうかと言うと
アルコール依存でも病的・非病的の飲酒パターンがみられたり
飲酒関連の問題の発生にも多様なパターンがあり
また、必ずしも飲酒パターンは
致死的ステージまで不可逆的に進むわけではないためです。

 

要するに、
同じ飲酒でも多様なパターンが
アルコール依存にはあり
すべてのアルコール依存の飲酒パターンで
必ず断酒が必要なのかは疑問であるって感じですかね。

 

*現在のアルコール依存症回復の定義*

最近のアルコール依存症回復の定義は、
より症状の有無・断酒をしているかということよりも
日常生活の機能とウェルビーイングに焦点が集まってます。

 

例えば、the Substance Abuse and Mental Health Services Administration (SAMHSA) によると
依存症回復とは
個人が健康増進を図り、自分らしく生き、自分らしさを追求することを通しての変化のプロセス。
(5)

 

 

断酒を依存症回復の定義に含めていません。
ただ、SAMHSAは断酒が重要ではないと言ってるわけだなく、
断酒がSAMHSAの依存症回復の定義に含まれる
健康増進を到達するための
1つの方法であるとしています。

 

 

ただ、もちろん断酒のニュアンスを含めた
アルコール依存症回復の定義もあり、

 

2007年のthe Betty Ford Institute Consensus Panel では
回復を以下のように定義しました。

「依存症回復は、ソーバー・健康・市民権を特徴とした維持された自発的なライフスタイル」

 

ちょっと直訳だとわかりにくいので
もう少し深くこの定義を説明した記事があるので
ぜひ、確認してみてください。

 

curiousquest.hatenablog.com

 

まあ、とりあえずこれら2つの依存症回復の定義で何が言いたいのか。

 

断酒した状態だけでは依存症が回復には
不十分であり、ただ単に断酒した状態では
日常生活が機能していなかったり、
ウェルビーイング向上しない人たちがいるわけです。

 

 

そして、2017年に再び
依存症回復を研究者たちによってミーティングによって
依存症回復とは何かアイディアが生まれました。

 

「回復とは、ウェルネスを向上させるために
個人それぞれの意図的・持続的・可変的・関連性のある持続的な取り組み」

 

この定義でいくつかのポイントがあります。

  • 個人差の認識
    (人によって取り組むことが違う)
    (例:断酒 or 減酒 or 節酒)
  • 意図的
    (本人の目標に沿ったもの)
  • 可変性
    (取り組むことが変わっても良い)
    (例:最初は、断酒から減酒に目標を変えた。)

 

要するに、
ウェルネスを向上させるためにする行動が
他人と違くとも、途中で変わっても
本人が望む方法で継続的に努力をしていれば
依存症回復と定義するわけです。

 

個人的には、最後の定義の方が希望が持てて
スティグマも減りそうな雰囲気がします。

 

ウェルネスとはなにかも説明したいですが
この記事が長くなりすぎるので
また、今度。

気になる人は、調べてみてください。

 

 

*まとめ*

  • 19世紀は、アルコール依存症の回復の定義は
    断酒・症状の有無に頼ったものだった。
  • 20世紀は、断酒は依存症回復の1つの手段であり
    根本の目的は、ウェルネス・日常生活機能・ウェルビーイングの向上
  • 依存症回復は、ウェルネスを向上させるための個人それぞれが意図的に行う
    変化のある継続性のある努力のプロセス。

 

*記事関連のおすすめ本*

日本語の関連書籍を読んだことが無いので、
関連記事を張っておきます。

 

curiousquest.hatenablog.com

 

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