アルコール・うつ病・自殺の関係【禁酒だけで自殺は減るのか?】
アルコール使用障害は、
頻繁に不安障害・気分障害といった
精神疾患を併発します。
そして、鬱も同様ですね。
また、アルコール使用障害(Alcohol Use Disorder ; AUD)と自殺の間にも
関連があります。
ということで、
アルコール・鬱・自殺の関係を見ていきましょう。
この記事は、読者さんからのリクエストに応じた
記事です。
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*アルコール・うつ・自殺*
うつ病は、最も頻繁にアルコール使用障害(AUD)と
併発する病気であり、
この2つが同時に発症する場合、
重症度・予後を悪いものにしてしまいます。
(Grant et al., 2004; Greenfield et al., 1998; Hasin et al., 2002)
それだけにとどまらず、
自殺行動のリスクも
アルコール使用障害と鬱が併発している場合
高めてしまいます。
(Conner et al., 2014)
ということで、
うつと自殺をアルコールの観点で
少し深堀していきます。
*うつ病*
うつは、実際は複雑で多様な症状が絡んできます。
特徴は、3つあります。
ただ、うつ(Depressive disorder)は
多くのカテゴリーが存在します。
- 大うつ病(Major depressive disorder)
- 持続性抑うつ障害(Persistent Depressive Disorder (Dysthymia))
- 薬物誘引型うつ障害(Substance-induced depressive disorder)
- 重篤気分変調症(Disrupted mood dysregulation disorder)
- 定型うつ病(Specified depressive disorder)
- 非定型うつ病(Unspecified depressive disorder)
(6)
今回の記事では、アルコール使用障害(AUD)と
よく頻繁に研究されている
大うつ病・持続性抑うつ障害・薬物誘引型うつ障害に
この記事では焦点を当てていきます。
*大うつ病*
鬱気分(興味の消失・活動における幸福感の消失)といった症状を特徴とします。
他の症状として以下があります。
- 食欲 ⇩
- 睡眠 ⇩
- やる気 ⇩
- 集中 ⇩
- 判断 ⇩
- 無価値感・罪(感情)⇧
- 自殺への試み・思考 ⇧
アルコール使用障害(AUD)の無い人と比べて、
ある人は、2.3倍ほど大うつ病を発症しやすいです。
(Grant et al., 2004)
そして、AUDと診断された人の
33%が大うつ病の診断基準を満たしています。
*持続性抑うつ障害*
これは、割と軽いうつ症状が長く続くものです。
症状は、大うつ病と似ています。
アルコール使用障害の無い人と比べて
あるひとは、1.7倍このうつ障害を発症しやすいです。
(Grant et al., 2004)
そして、AUDと診断された人の
11%が持続性抑うつ障害の診断基準を満たしています。
*薬物誘引型うつ障害*
これは、アルコール等の薬物によって引き起こされる
うつ様の症状を表しています。
薬物誘引性方うつ障害の特徴
- 気分の落ち込み
- 快楽消失
そして、ストレスと多大な障害を引き起こし、
これらの症状は、アルコール摂取に関連して
発症します。
*アルコール摂取とうつ症状発症のタイミング*
- アルコールを摂取後
- アルコール摂取からの離脱後
- 禁酒から、3-4週間で消失
このうつ障害は、まれで
他の薬物でも1%以下と言われています。
(Grant et al., 2004)
ただ、AUD持ちの方が無しの人より
有病率は高いです。
ただ、AUDの当事者の25%ほどが
生涯に一度は
薬物によって誘引されたうつ障害を発症したと
報告しています。
(Schuckit et al., 1997)
ただ、ほとんどの薬物誘引のうつは
のちに、他のうつ障害として診断されます。
(Nunes et al., 2006)
理由としては、
アルコールの使用を中止しても
鬱症状が続くからです。
*AUDとうつ病のメカニズム*
いくつかAUDとうつが同時に発生する理由を
説明する方法があります。
- うつ障害がAUDのリスクをあげる
- AUDがうつ障害のリスクをあげる
- AUDとうつ障害に共通のリスクファクターがある
そして、どれが正しいのかと言うと
現段階では、どれも正しそうな印象です。
(McHugh & Weiss, 2019)
そのため、うつとアルコールには
一方向性の関係ではなく、
両方向性の関係があり、
お互いが影響しあい、
また、お互いに共通する危険因子があるということですね。
*自殺*
自殺は、いろんな要素が複雑に絡んだ結果によって
引き起こされます。
そして、うつ・AUDが自殺による
早死に影響を与える精神疾患として
1位・2位の疾患になってます。
(Ferrari et al., 2014)
私のいる西洋の国では、
20-30%の自殺者がAUDと報告されています。
(Chachamovich et al., 2012; Giupponi et al., 2016; Kolves et al., 2017)
また、急性アルコール中毒も
自殺リスクと自殺未遂のリスクをあげます。
(Kolves et al., 2020; Borges et al., 2017)
同様に、最大で69%の自殺をしてしまった人からは
アルコールが検出されています。
(Cherpitel et al., 2004)
以上のように、アルコール・うつ・自殺には
関連があります。
*アルコールが自殺を引き起こす*
いくつか、アルコールによって
自殺が引き起こされる要因となっているものが
示唆されています。
(Hufford, 2001)。
*アルコール摂取による変化と自殺*
- 中枢神経の抑制
⇒注意・自己監視 ⇩
(Fairbairn et al., 2020) - 衝動性 ⇧
(Stamates & Lau-Barraco, 2020) - うつ思考・絶望感 ⇧(特にAUDグループ)
(Cnner & Duberstein, 2004; Jakubczyk et al., 2012) - アルコール近視?⇧
(Alcohol Myopia(アルコール摂取後、明らかなものにしか注意がいかない)
⇒認知機能 ⇩
⇒最近の嫌なイベントを繰り返し考える ⇧
⇒ネガティブな感情・ストレス ⇧
(O'Connell & Lawlor, 2005) - 急性・慢性のアルコール使用
⇒痛み耐性 ⇧
(Amadi et al., 2020; Jakubczyk et al., 2021; Kwon et al., 2020; Perrino et al., 2008) - 急性・慢性のアルコール使用
⇒死への心理的抵抗 ⇩
(Norstrom & Rossow, 2016)
上記のようなアルコールの効果が
より致死率の高い自殺方法の選択のリスクを高めています。
*アルコールを減らすと自殺は減るのか?*
AUDと鬱が、自殺に関連してそうな
雰囲気が出てきましたが、
最悪の結末である自殺を減らすために
アルコール、もしくは鬱を改善したら
自殺が減りそうな雰囲気はありそうですよね。
ということで、1つアルコールと自殺に関する
論文を調べました。
Witt et al. (2021)のメタアナリシス(信頼度高い)では、
アルコールの量を減らすための介入は
(心理社会的な治療(ACT・CBT・MET・MI・DBT))
自傷行為の減少させるが
希死念慮・自殺には明らかな効果はないと
報告しています。
残念ながら、アルコールを減らしたぐらいでは
自殺が減ることはなさそうな雰囲気ですね。
依存症の回復となんか似てますよね。
アルコール摂取をやめることが
依存症回復には不十分と言われたりしてますからね。
依存症回復についての記事も
合わせて読んでみてください。
*まとめ*
- アルコール使用障害は、
精神疾患と併発が頻繁で、
うつ障害が特に多い - うつ・アルコール使用障害が
自殺による早死に
最も影響を与える精神疾患。 - うつとアルコール使用障害には、
共通点があり、
お互いにお互いの疾患を引き起こしあう
関係。 - 急性・慢性のアルコール使用が
認知機能・生理学的・心理学的変化を引き起こし、
致死率の高い自殺行為のリスクを高める。 - アルコール摂取を減らすだけでは、
自殺行為は減らない可能性がある。
*記事関連のおすすめの本*
「自分を傷つけてしまう人のためのレスキューガイド」
日本で、依存症というと
すぐに名前が挙がる先生の松本先生の書籍です。
うつ・自殺・アルコールの関係が見えてきたと思うので、
家族・医療従事者がどのような知識と支援ができるのか
解説してくれている本です。