依存症とセロトニン。抗うつ薬は依存症に有効なのか。【依存症治療】
依存症と言えば、
ドーパミンですよね。
そして、そのドーパミンの代わりに
セロトニンを出そうみたいな話がありますが
実際どうなのか
抗うつ薬の視点で少し
この話に切り込んでみようと思います。
ドーパミンと依存症についての記事があるので
まだ読んでいない人は、ぜひどうぞ。
*抗うつ薬*
抗うつ薬は、うつ病に対して使用される
薬物ですが
依存症では、うつ病が頻繁に
併発します。
そのため、依存症にうつ病が伴っている場合は
抗うつ薬が処方されることがあります。
(Thase et al., 2001)
また、抗うつ薬は
依存性のある薬物(特にアルコール・コカイン・ニコチン)の
依存を作り出すメカニズムに対しても
効果が期待されていました。
(Hughes et al., 2003)
*セロトニン*
*アルコール*
アルコール依存では、
セロトニン(情報伝達物質)のシステムが
アルコール摂取に関係しているという
エビデンスを基に抗うつ薬が処方されることが
あります。
また、同様に
セロトニンシステムの不具合が
アルコール障害に関連があるといった話もあり
結果として、抗うつ薬のような
セロトニンをターゲットにした薬が
アルコール依存を治療するために使用される背景にあります。
ただ、実際は
抗うつ薬である
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が
アルコール依存に有効なのかは
不明です。
(Garbutt et al., 1999, Pettinati, 2001)
システマティックレビュー(信頼度が高い)でも
抗うつ薬のアルコール依存に対する効果は
確立がされていないと報告されています。
(Torrens et al., 2005)
*コカイン*
コカインも同様で
急性の薬物摂取によって
セロトニンは増加し、
長期の使用により
セロトニンは減少していきます。
そして、セロトニンの減少は
渇望・鬱に関連があると考えられており、
抗うつ薬を投与すれば
それらの症状が改善すると思われていたが、
実際は、強固なエビデンスは存在しません
(Lima et al., 2003)
*ニコチン*
たばこの場合もニコチン代替療法や
非ニコチン薬(抗うつ薬)が
薬物療法としての選択肢としてあります。
しかし、Hughes et al. (2003)の
メタアナリシス(信頼度高い)では、
SSRIは、タバコを止めるには
有効ではないと報告されています。
*うつはセロトニン不足ではない*
依存症はうつを併発しやすいですが、
SSRIのような抗うつ薬に効果がなさそうな
雰囲気がでてますね。
少し余談ですが、
もしかしたら、その原因としては
うつは、セロトニン不足という仮説が
間違っている可能性があるかもしれません。
最近、システマティックレビュー(信頼度が高い)でも
うつのセロトニン不足説は否定されました。
(Moncrieff et al., 2022)
よく言われている
うつにはセロトニンを出そうみたいな話は
最近怪しくなってきた感じですよね。
そのため、依存症で併発する鬱に対しても
抗うつ薬に関してもう一度考え直す必要がありそうですよね。
*SSRIと他の治療を組み合わせる*
割と、抗うつ薬単体では
依存症に効果はないというのが
合意が取れてきている雰囲気がありますが、
単体の治療でうまくいくものは
システマティックレビューやメタアナリシスのような
信頼度が高いレベルのエビデンスがある治療の数には
限りがあります。
ただ、いろんな治療を組み合わせると
上手くいくことがあります。
事実、うつを併発しているアルコール依存と物質依存に対しては
抗うつ薬と心理療法を組み合わせるのが
ベストな治療法だと
システマティックレビューレベルで
言われています。
(Ahmed et al., 2020)
この感じは、依存症の複雑性を示していますよね。
また、その複雑なものに対しても
シンプルなアプローチではなく
いろんな方面からのアプローチの必要性を
表していそうですね。
依存症の複雑性について
依存症の定義とともに解説した記事があります。
ぜひ、読んでみてください。
*まとめ*
- セロトニン(情報伝達物質)も依存症に関連する
- うつは、依存症と併発しやすい
- 依存症の鬱に対して、抗うつ薬が処方される
- 抗うつ薬の依存症と鬱への効果は、不明
- 抗うつ薬と心理療法の組み合わせは
効果がある可能性
*記事関連のおすすめの本*
「精神科の薬について知っておいてほしいこと」
「A Straight Talking Introduction to Psychiatri Drugs」
依存症と精神疾患に足を突っ込んだ私としては、
2022年で3番目ぐらいに読んでよかった本ですね。
割と、薬完全否定の人がいますが
Moncrieffさんは中立的な立場で
しっかりとエビデンスを評価しながら
薬の有効性・副作用をまとめてくれてます。
日々研究がされ、本の場合は出版に時間がかかるので
データが若干古い可能性もあるかもしれませんが
多くの精神疾患とその薬をきれいに
まとめてくれてます。
ぜひ、依存症と他の精神疾患を持っている人は
購入して読んでみてください。