依存症自助グループでのコミュニケーション方法
*サンドイッチが学習を促進させる*
依存症の回復は、時々「人生生きなおし」と言われたりします。
要は、依存してきた物質・行動なしに
どうやって生きるのか「再学習」する旅路である。
回復に必要な要素がいくつかありますが、
この記事では学習に関連した、
「フィードバック」についてお話します。
何かを学習するときには、フィードバックがあると良さそうですよね。
自分の知り合い・依存症回復のコミュニティーで
励ましあったり、指摘したり、フィードバックを与えたり
そのような場面が想定できますが、
どのようなフィードバックを与えるといいのか解説していきます。
そして、より良いフィードバックとともに
よりよいコミュニケーション
よりよいコミュニティの作成に役立ててみてください。
依存症回復についての記事もあるので
ぜひ、読んでみてください。
*フィードバック*
フィードバックは、自分の行動や反応によって生じた結果を受け取り
その結果を参考にし、次の行動を適切なものにしていく過程です。
そのため、フィードバックがあるとより学習が効率化され
目標達成を可能にさせます。
実際に、フィードバックは学習・目標達成において
最も影響力のある要素の1つと言われています。
(Harrie and TImperley 2007)
そのため、いろんな業界で効果的なフィードバックとは何か研究されています。
例えば、教育業界、管理職、カウンセリング業界。
ただ、問題は正しいフィードバックを与えないと意味を持たない点です。
実際に、テスト形式で正誤判定を与えるフィードバック形式では
目標達成に対して、小さな影響力しかなく
また、その効果はまちまちでした。
さらに、残念なことに31%のフィードバックの効果は
逆効果を与えていました。
(Bangert-Drowns et al., 1991)
なので、しっかりとしたフィードバックを与えないと
効果がないだけでなく、逆効果である可能性があります。
*フィードバックの変数*
フィードバックの効果に影響を与える要素はいくつかあります。
*フィードバックの効果に影響因子の例*
- 口頭の誉め言葉 ー フィードバックの効果減少
- 高頻度のフィードバック ー 効果上昇
(Kluger & De Nisi, 1996) - スキルに対してのフィードバック ー メタ認知の維持
- パフォーマンスに対してのフィードバック
ー そのパフォーマンスを達成した方法の使用頻度を減らす
(Muis et al., 2013)
例をあげましたが、実際はもっとたくさんのフィードバック方法があり
それらの研究の余地がたくさんあります。
*サンドイッチフィードバック*
いろいろとフィードバック方法がある中で、
人気なフィードバックのタイプがあります。
その1つが「サンドイッチフィードバック」です。
決して、サンドイッチを食べさせたりはしません。
この場においての、サンドイッチはフィードバックの順序を表しています。
フィードバックには、肯定的・否定的の2種類が大まかにあり
この2つを使ってサンドイッチを作ります。
サンドイッチの順序は、「パンー具材ーパン」ですよね。
このパンと具材を2つのフィードバックの方法で作ります。
つまり、
- 肯定的なフィードバックをパン・否定的なフィードバックを具材
- 否定的なフィードバックをパン・肯定的なフィードバックを具材
どちらかの方法で、フィードバックのサンドイッチを作ります。
そうすると2つのフィードバックの順序が見えてきますね。
- 肯定 ー 否定 ー 肯定(肯定で始まり、肯定で終わる)
- 否定 ー 肯定 ー 否定(否定で始まり、否定で終わる)
どっちが良いかと言われれば、
肯定的なパンに否定的な具材が挟まれたサンドイッチがおいしそうですよね。
ということで、肯定ー否定ー肯定の順序のフィードバックが好まれます。
そして、これをサンドイッチフィードバックと言います。
(Parkes et al., 2013)
このサンドイッチフィードバックは、様々な場面で推奨されています。
例えば
- スポーツ (Docheff, 1990)
- ヘルスサービスの管理職 (Dohrenwend, 2002)
- オンライン教育 (Kulmala, 2011)
- セールス業界 (Ionescu & Negrusa, 2009)
なぜ、推奨されるのかというと
期待される、サンドイッチフィードバックの効果がいくつかあります。
*サンドイッチフィードバックの期待される効果*
- フィードバックを受け取る側の信頼・快適さを築く
- 否定的なフィードバックを受け取りやすくなる
- 否定的なフィードバックが与えるネガティブな効果を減らす
(例; セルフイメージの形成) - モチベーションの上昇
- 課題への没頭
(parkes et al., 2013)
モチベーションの維持は、依存症に大切そうですよね。
なぜ、これらの効果が期待されるのか。
いくつか、想定されている理論があります。
*サンドイッチフィードバックの理論*
- もし、批判が賞賛と組み合わせられた場合
より、批判を受け入れることができる。 - プラスとマイナスのどちらの視点からのフィードバックにより
バランスの取れたフィードバックになる。 - 批判を受け入れるときに生じるストレス・不快感は
肯定的な言葉で挟むことで減らすことができる。
たしかに、批判だけ言われても
いい気分はしませんし、やる気が出なくなりますよね。
ただ、もちろんサンドイッチフィードバックに対する批判もあります。
*サンドイッチフィードバックの批判の例*
- 批判を賞賛を使って隠すべきではない (James, 2015)
- 機械的に聞こえる (Cantillon & Sargeant, 2008)
- フィードバックと人間関係をひそかに損なう
(Von Bergen et al., 2014) - プラスとネガティブなフィードバックをもらうことで、混乱する
(Parkes et al, 2013)
ただ、上記に挙げた効果・批判は理論的な話であり
実際の実験ベースではありません。
ということで、実際の研究ベースの結果を1つ観てみましょう。
*サンドイッチフィードバックの実際*
私自身が、判断した割としっかりした実験を
選びました。
実験の流れとしては、
- 課題(数学)をこなしてもらい
- フィードバックを受け取る
- 2回目の課題(数学)のための勉強・準備
- 再び課題(数学)を行う
そして、
フィードバックの種類とフィードバックの前後における
課題のパフォーマンスを比較しました。
また、フィードバックを受けとった後に
どれ程の時間、課題のために準備をしたのかも比較しました。
フィードバックの種類は3種類
- サンドイッチフィードバック(肯定ー否定ー肯定)
- 批判的な訂正のみのフィードバック
- フィードバックなし
結果
サンドイッチフィードバックをもらった人たちは
フィードバック後のパフォーマンスが他のグループよりも高値を示した。
(Prochazka, et al., 2020)
やはり、プラスの言葉にサンドイッチされた批判の方が
学習には有効そうですね。
逆に、フィードバックをもらわなかったグループの中で
元々パフォーマンスが低い参加者は、パフォーマンスが低下してました。
これは、よりできない人に対しての
フィードバックの重要性を示していますね。
この実験での課題は、あくまで数学ですが
今後、同様の実験が依存症グループに行われるといいですね。
見つけ次第、記事を書きますね。
*まとめ*
- 依存症は、「人生生きなおし」の再学習の旅路
- 学習には、フィードバックが有効
- フィードバックの仕方が学習に影響を与える
- 2つのプラスの言葉を最初と最後に持ってきて
マイナスの言葉をはさむ、
サンドイッチフィードバックが学習を促進させる。
*最後に私からのサンドイッチフィードバックです*
依存症回復においてコミュニティーは大切です。
お互いに励ましあったり、誉め合う様子は回復の手助けをします。
非常に素敵なことです。
(賞賛)
ただ
時々、依存症のグループ内や専門家の人が
依存症の回復を決意した人・回復途中・回復した人に対して
批判や訂正をしているのを見かけます。
もちろん、エビデンスに沿っていない。
間違った情報を正すことが社会にとって良いことだとも思います。
しかし、もし本当にエビデンスに基づいて
他の人を訂正・修正・批判をするのであれば、
その方法もエビデンスに基づいた方が良いと思います。
(指摘・訂正)
誰か困っている人を助けることは、自分のためにも
他人のためにもなる非常に良い行動です。
ぜひ、続けてみてください。
(賞賛・励まし)
*記事関連のおすすめの本*
「ハーバード あなたを成長させるフィードバックの授業」」
「Thanks for the feedback」
この本は、フィードバックを与える・受け取る
どちらの側面も触れています。
フィードバックをもらっても、上手に生かせない場合もあると思います。
受け取り側は、どのようにフィードバックを有効に使い
成長すればよいのか。
依存症の治療の過程でと、ありとあらゆるところから
フィードバックが押し寄せてくると思います。
ぜひ、その時のための準備を
この本を読んでしてみてください。