【依存症は脳の認知機能が原因⁉】
*依存症の脳は頭が良すぎる*
「依存症=病気」という視点は、度々議論されます。
ただ、この視点では説明しきれないこともたくさんあります。
事実、信頼できる特定の生理学的マーカーは
未だ見つかっていません。
また、ほとんどの実験が動物を使っているため、
人類に応用するときには、注意が必要です。
また、「依存症=病気」に影響を与える要素として
認知機能があります。
認知プロセスによって、「依存症=病気」の視点に
様々の影響を与えます。
この記事では、実際にどのように依存症において
認知機能が関わるのか説明していきます。
「依存症=病気」についての記事があるので
興味のある人はぜひ、読んでみてください。
*認知機能*
まず、認知機能とはなにか。
認知機能の定義
ー 目標達成をするための行動・思考を導くために必要な能力
(例;抑制、記憶、注意力、学習)
(Friedman & Robbins, 2022)
上記の能力を使い、自分の目標に向かって
行動・思考する
そんな能力が認知機能になってきます。
パッと聞くだけでも、依存症に関わってきそうな
雰囲気がありますね。
例えば、禁酒するためには
しっかりと自分の行動を抑制することが必要になるかもしれません。
また、依存症において学習は重要な一部です。
記憶も、過去の経験が依存症に関わります。
注意力は、依存症になると
常にその薬物のことばかり考えてしまいます。
*依存症と認知機能*
実際に、依存症における認知機能はどのような状態なのか。
メタアナリシス(信頼度が高い研究)によると
以下の認知機能障害がみられます。
- 選択的注意
- 注意バイアス
- 実行機能
- 報酬ベースの決断
- エピソード記憶
(Baldacchino et al., 2012; Biermacki et al., 2016; Leung et al., 2017)
また、衝動性も依存症のリスクファクターとして言われています。
(de Wit, 2009)
de Wit (2009)によると
衝動性とは
ー 未熟な思考によって実行され
その場その場の状況に適さないため、
頻繁に危険・望まない結果を導く行動。
この衝動性は、青年期の特徴として言われています。
事実、青年期では認知機能をつかさどる脳の部位(前頭皮質)の発達は未成熟です
(Spear, 2000; Crews et al., 2007)
さらに、青年期は依存症の発症のリスクが高く
統計的にも青年期の依存症の割合が多いです。
(Hasin & Grant, 2015)
*実際の依存症の認知機能障害*
実際に、依存症において
認知機能にどのような影響を受けているのか。
ざらっと実験を持ってきて説明します。
*Stroop Task*
この実験は、Stroopさんによって開発されました。
抑制力や注意力を推し量ることができます。
この実験方法では、
色を意味する文字がその色とは異なる色で塗りつぶされています。
参加者は、塗りつぶされた色に惑わされることなく
単語それ自体の意味の色を答えます。
例えば、一番左上の「Yellow」
- 文字上の意味 ー 黄色
- 塗りつぶされた色 ー 赤
参加者は、塗りつぶされた色を答えずに
文字上の意味である「黄色」と答えなければいけません。
依存症においては、文字が薬物関連の言葉と薬物に無関係の言葉の組み合わせに代わります。
参加者は、今後は薬物関連の言葉に惑わされることなく
塗りつぶされた色を答えなくてはなりません。
例 Smoke
- 文字上の意味 ー Smoke
- 塗りつぶされた色 ー 赤
答えは、「赤」と言わなければいけません。
この実験の解釈として、
普通であれば、どの単語に対しても同様の反応の遅れが予測されます。
ただ、依存症の人たちは薬物関連の単語に対しての反応に違いがあったら
注意力や抑制力のような認知機能に影響を受けていることになります。
*実際の実験*
Lusher et al. (2004)では、
アルコール依存グループと非アルコール依存グループで
アルコール関連の言葉とアルコールとは無関係の言葉を使い
反応速度を調べ、比較しました。
アルコール依存 | 非アルコール依存 | |
アルコール 関連の言葉 |
1063 ms | 837 ms |
アルコール 無関係の言葉 |
949 ms | 822 ms |
(Lusher et al., 2004 を基に作成)
結果をみると
アルコール依存グループは、アルコール関連の言葉で大きな反応の遅れがみられています。
つまり、アルコール関連の刺激に注意力が奪われ
抑制力が弱くなっていることが言えそうです。
*Dot-Probe task*
Dot-Probe taskは、Posner et al. (1980)さんたちによって開発されました。
実験方法は、スクリーン上の点を見るように言われます。
そして、その後この点が消えて
点を中心として左右・上下に2つの単語が現れます。
そして、参加者はどっちかの言葉・写真を
できるだけ早く選んでもらいます。
普通であれば、どの言葉に対しても
同じだけの速度で反応すると考えられます。
ただ、もし依存症グループが薬物関連の言葉に対して
早く反応したら、より薬物関連の言葉・写真に注意力を払っていることになります。
実験結果の例
Ehrman et al. (2002)では、喫煙者と非喫煙者で
Dot-probe taskを行いました。
そして、「たばこ関連の言葉・写真」と「たばこと無関係の言葉・写真」への
反応速度を比べました。
結果
無関係の 写真 |
たばこ関連の 写真 |
時間差 | |
非喫煙者 | 468.1 ms | 461.6 ms | 6.5 ms |
喫煙者 | 426.2 ms | 403.2 ms | 23.0 ms |
(Ehrman et al., 2002 を基に作成)
喫煙者は、たばこ関連の言葉により早く反応していることがわかりますね。
このような結果は、他の薬物依存(コカイン・ヘロイン・アルコール)でも言われています。
(Franken et al., 2000; Lubman et al., 2000; Townshend &Duka, 2001)
*Dichotic-Listening Task*
この実験では、ヘッドフォンを使い
左右の耳から異なる音声入力を与えます。
そして、基本的には左脳にウェルニッケ野(聴覚をつかさどる)と言われる場所があるため
我々は、右耳からの情報を優位に聞き取ります。
なので、我々は右耳からの聴覚情報を優位に処理します。
しかし、依存症ではどうなるのか。
Andrews (2008)では、喫煙者・元喫煙者・非喫煙者の3グループで比べました。
音声は、「たばこ関連の音声」と「たばこと無関係の音声」を使いました。
結果
たばこ関連音声 | 無関係の音声 | |||
左耳 | 右耳 | 左耳 | 右耳 | |
喫煙者 | 7.07 | 8.07 | 2.7 | 5.83 |
元喫煙者 | 4.3 | 6.43 | 1.4 | 7.03 |
非喫煙者 | 2.2 | 5.03 | 3.67 | 9.37 |
(Andrews, 2008 を基に作成)
ほとんどの条件において
右耳の方が優位に音声を処理していました。
しかし、赤字の喫煙者グループにおいての
たばこ関連の音声では、右耳と左耳の音声処理課題で
統計的に優位な差がありませんでした。
つまり、どちらの耳・脳においても
たばこ関連の情報をしっかりと処理していることになります。
*Visual recognition task*
次の実験では、視覚刺激を使いました。
実験では、スクリーン上にぼやけた物体が用意されています。
次第にぼやけた画像がきれいになっていき、
ぼやけた物体が何者か分かった場合に
答えてもらいます。
左上から順に、一番ぼやけた写真から少しずつ解像度が上がり
右下には一番解像度が高い写真になってます。
依存症グループは、どんな反応を示すのか。
Chandler and Diri (2006)では、喫煙者と非喫煙者で
「たばこ関連の写真」と「たばこと無関係の写真」を使い
どれ程、早く物質を認識できるのか比較しました。
結果
薬物 | 喫煙者 | 非喫煙者 |
たばこ | 7.4 | 10.2 |
たばこ 無関連 |
9.15 | 9.25 |
喫煙者は、ぼやけたたばこ関連の写真を
いち早く認識しました。
このように、依存症ではいろんな刺激を
薬物とすぐに結びつける特徴がみられます。
このような特徴は、学習理論でも見られますね。
学習理論と依存症についての記事は、まだあります。
ぜひ、読んでみてください。
*まとめ*
- 認知機能は、目標に向かって行動するために必要な能力
- 依存症では、認知機能に変化が生じている
- 依存症では、薬物関連の刺激に視覚・聴覚レベルで
注意が向きやすい。 - 依存症では、依存症関連の刺激に反応しやすく
抑制力が弱まっている。
*記事関連のおすすめの本*
「ファスト&スロー (Thiking fast & slow)」
これは、かなり売れた心理学系の本の一冊だと思いますね。
(上)と(下)があります。
確か、この著者はノーベル学賞とってましたね。
直感とはなにか、かつ論理的でゆっくりな思考等も含めて
認知バイアスをかなり上手にかみ砕いています。
認知バイアスは、依存症において重要になります。
ぜひ、購入して読んでみて下さい。