CuriousHunter 依存リハ

好奇心のままに、依存症を探索

依存症のストレス・ドーパミンバランス【アロスタシス】

 

人間の優れた能力が仇になる

 

ストレスが依存症の発症・維持・再発に影響を与える可能性が
動物を使った実験で示唆されています。
これらを理由に、ストレスが様々な依存症の理論の発展に役立っています。

この記事では、その中の理論の一つを取り上げます。

まだ、ストレスと依存症についての記事を読んでいない方は
ぜひ、読んでみてください。

 

curiousquest.hatenablog.com

 

 

*ストレスを考慮した依存症*

ざっくり羅列すると6つほどストレスが関係している理論がありそうです。

  • Tension reduction (緊張=ストレスを減らす)
  • Self-medication models (ストレスが理由で薬物摂取)
  • Relapse prevention (再発防止)
  • Disease model (依存症=病気 モデル)
  • Alcoholics Anonyomus (アルコールアノニマス
  • Preclinical models (Koob さん、Kreek さん、LeMoal さん)
    (前臨床段階の依存症モデル)

日本では、どのように呼ばれているかはわかりませんが
アルコールアノニマスは有名ですよね。

 

この記事では、最後のPreclinical models でKoobさんの理論を取り扱います。

簡単にこの理論を説明すると
ストレスが脳の報酬系のシステムを変えて、薬物の依存性を強化する。

なぜこんなことが言えるかというと
ストレス反応の神経回路(HPA Axis)と脳の報酬系回路につながりがあるためです。

Cleck & Blendy, 2008 を基に作成

簡易的な図をいれました。
細かい専門用語はスキップしますね。

大事なことは、ストレス反応と報酬回路に関わりがあることです。

 

*ストレスに対する適応と報酬系

我々の体には、便利な機能がたくさんあります。
その1つが適応です。
なにか、変化がおきるとその変化を打ち消そうと
反対のことをして体を適応させます。

たとえば、どんな環境においても
体温は一定に保つために体は外部環境に適応します。
恒常性(ホメオスタシス)と呼ばれていますね。

似たようなことが、ストレスと報酬系にも起きます。

 

そして、ストレス・ドーパミン報酬系)の変化と適応を考慮した理論が
上記で挙げたKoobさんの理論です。

基本的なこの理論のポイントは2つあります

  • 初期のポジティブな感情や効果を得るための薬物摂取は消失する。
  • 長期の薬物摂取は、ネガティブな感情を取り除くための薬物摂取に導く

この最初の1点目は、他の理論でも考慮されていますね。
その理論の記事もあるので、ぜひ読んでみてください。

curiousquest.hatenablog.com

 

そして、この理論の注目点は
2点目の項目です。
ポイントとしては、長期の薬物使用によって
体は薬物摂取に適応しようと体を変化させます。

最終的に、新たな基準を体に作り出し
その基準が、依存症を依存症らしくする
原因として考えられています。

そして、この適応にストレスとドーパミンが関わってきます

 

*アロステイシス*

先ほど、触れたホメオスタシスがありますが
体には、アロステイシスという
ホメオスタシスと似たような機能があります。

 

*アロステイシスの定義*

  • 動的なプロセスで、日常の現象による変化の影響を受けるホメオスタシスを維持するための体の反応
  • 変化を起こすことで、体の安定を維持する。(ホメオスタシスの代わりではない)(Sterling & Eyer, 1988)

そして、この機能に負荷をかけるものがストレスです。

 

要は、体の何かを変化させて
体の重要な機能を一定に保とうとするのが
アロステイシスであると。

ただ、過剰なストレスがかかると
アロステイシスの機能に負担が過度にかかり
体のバランスが崩れてしまいます。

依存症は、ストレスとほぼ隣り合わせなので
薬物使用によるストレスが過剰なストレスになり
体に不具合が発生しそうですよね。

 

ホメオスタシスとアロステイシス*

この2つは、若干違いが分かりにくいので
詳しく説明する前に
サクッと違いを説明します。

 

ホメオスタシス

  • 正常の基準
  • 生理学的な平衡
  • 需要の予測はない
  • 過去の経験を考慮した調整はない
  • 調整にコストはかからない
  • 病気的でない

*アロステイシス*

  • 変化した基準値
  • 代償された平衡
  • 需要の予測を伴う
  • 過去の経験を考慮した調整
  • 調整にはコストがかかる
  • 病的になりえる

これらからアロステイシスの特徴が見えてきますね。

アロステイシスでは、過去の経験や需要の予測を伴い
基準値をコストをかけてでも変化させ、安定を確保する。
そして、病的な基準を作り上げることもある

この、特徴がどのように依存症に関わるのか
Koobさんの理論で説明していきます。

 

*依存症の経過(Koob理論)*

Koobさんは、依存症初期においては
薬物摂取のポジティブな効果が重要であると言っています。

しかし、このポジティブな効果(幸福等)を得るための薬物摂取は
長期的な薬物摂取により、消失すると考えられています。

その代わりに、ネガティブな要素を取り除くために薬物摂取がみられるようになります。

Koob, 2003 を基に作成

要は、依存症初期では
薬物の使用によって得られるポジティブな影響(幸福・快楽)を求める
衝動的な行動が薬物摂取を強化する。

これを、学習理論では正の強化。
=報酬がもらえるから、再び同じ行動をとる

 

しかし、依存症が進み
長期の薬物摂取により、体に悪影響が現れます。
それが、ストレスや不安です。
この負の感情を取り除くために、今度は薬物摂取をします。

これを、負の強化と言います。
=罰を受けたくないために、再び同じ行動をとる。

 

そして、この負の強化に
ストレス・ドーパミンに対する適応(アロステイシス)がみられます。

学習理論と依存症についての記事もあるので
ぜひ、読んでみてください。

curiousquest.hatenablog.com

 

*薬物摂取とドーパミンシステムの適応*

基本的には、大抵の薬物はドーパミンに作用します。

そして、体の薬物摂取への適応は
ドーパミンが作用する報酬系のシステムの機能を下げます

なぜなら、薬物によりドーパミンがたくさんでるため
その過剰なドーパミンに対応するため、
報酬系の回路の機能を下げて対応します。

そして、長期の薬物摂取によって
この報酬系の機能低下は維持されて
新たなドーパミンシステムの基準を作り上げます。

ここに、アロステイシスが関わっていますね。

薬物摂取による、過剰なドーパミンに対応するため
報酬系の機能を下げて
次の薬物摂取による変化に対応して、一定を保とうとする。

 

依存症とドーパミンについての記事もあるので
ぜひ、読んでみてください。

curiousquest.hatenablog.com

 

 

*薬物摂取の報酬と離脱症状(快楽)*

先ほど、ほとんどの薬物がドーパミンシステムに作用することを説明しました。

ほかにも、薬物はいろんな情報伝達物質に影響を与え、
感情や快楽感に影響を与えます。

 

ざらっとそれぞれの薬物に対する
情報伝達物質を並べます。

そして、これらの情報伝達物質と快楽の関係があります。

 

*快楽度上昇*

よって、基本的に薬物を摂取すると快楽を感じるわけです。

 

逆に、これらの情報伝達物質が不足すると
感情に対して、逆の効果が出てきます。

*快楽減少(離脱症状)*

そして、これらの情報伝達物質は長期の
薬物使用によって体が過剰なドーパミンセロトニン等に対応しようと
これらの物質を減らすため、薬物摂取なしでは
これらの情報伝達物質は不足してきます。

*アロステイシスと依存症*

長期の薬物使用によって、
体がそれらの変化に適応しようと変化を起こすことが分かったと思います。

つまり、アロステイシスは
報酬系の機能の安定を維持するために
報酬系回路とストレスシステムを変化させて
対応していることになります

ただ、この変化は正常な報酬システムからの
慢性的な逸脱を引き起こします。
これが、依存症=慢性的な病気を支える理論になってますね。

 

実際にどのように、快楽度の基準値がずれ
報酬系・ストレスシステムの適応が行われるか
Koobさんがきれいにまとめた図があります。

快楽度の平衡と平衡因子(Koob, 2001 を基に作成)

上記の図は、基本的な快楽感の基準と
その基準値を取り巻く要素です。
ドーパミン等が上昇すると快楽度が上昇し
ストレスホルモンが上昇すると快楽度が減少します。

 

そして、長期の薬物摂取によって
この平衡バランスの基準値がずれます

長期薬物使用による基準値のずれ (Koob, 2001 を基に作成)

上記の図のように、長期の薬物使用により
薬物摂取による過剰なドーパミン等を体が予測し、
今後の薬物摂取の影響を考慮し、
ドーパミン等の機能を低下させて
新たな基準値を作り上げます

 

また、気分を上昇させる薬物と反対の効果を持つ
ストレスシステムは、過剰な高揚感を打ち消すために強化されています。

 

そのため、常に快楽度の基準値が正常より
下に位置しています。

それが故に、長期の薬物使用は負の強化によって
薬物摂取が促されています。
つまり、幸福度を得るための薬物摂取ではなく
離脱症状から逃れるために薬物摂取をしていることを示唆しています。

 

このように、体は薬物摂取の経験を基に
将来の体への変化を予測し
それに対応しようと体を変え、新たな基準値を作り上げます。

しかし、この新たなストレスとドーパミン平衡の基準値は
薬物ありきの基準値です。
そのため、薬物なしではホメオスタシスを保てなくなるため
常に薬物を欲してしまうのが依存症である。
そのような理論になっていますね。

 

*まとめ*

  • ストレスを考慮した依存症の理論は多い
  • ストレスと報酬系回路は密接な関係がある
  • Koobさんの理論はストレスを考慮してた理論
  • 長期の薬物使用は、新たな基準を作り出し
    体が薬物摂取に適応する。
  • 報酬系とストレスシステムを変化させ
    薬物摂取に適応する
  • 適応の結果、ストレスは増強され
    快楽伝達物質は抑制される。
  • 適応の結果、薬物なしでは気分・感情の平衡を保てない=依存症

 

*記事関連のおすすめの本*

「残酷な進化論」

 

進化は、割といい意味で使われがちですよね。
ただ、進化をすることで失ったものや不都合なことが起きることもあります。

依存症と似てますよね。
一生懸命体は、薬物摂取に適応しようとした結果
薬物摂取なしでは生きづらくなってしまうのが依存症です。

依存症とは、少し離れたお話ですが
視野が広がる一冊だと思います。

ぜひ、購入して読んでみてください。